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「ただいま、なまえ」

「お帰りなさい、零さん」

いつもこのマンションを訪れた時のようにただいまのキスをすると、零さんは片手に持っていた犬用のケージを私に見せた。

「連れて来たよ」

「わあ!ありがとうございます!」

早速リビングに運んでもらい、そっとケージを降ろす。

「おいで、ハロ」

入口を開けた零さんが呼ぶと、ハロちゃんは素直に中から出てきた。
見慣れない部屋の中が気になるのか、キョロキョロ辺りを見回している。

可愛い!
私はその姿に身悶えそうになった。

「ハロ、俺の大切な人だよ」

「こんにちは、ハロちゃん」

「アン!」

零さんが私に抱っこさせてくれたので挨拶をしたら、元気よくお返事をしてくれた。

「いい子いい子」

撫でてあげると、気持ち良さそうに目を閉じる。
可愛いなあ。

「可愛いな」

「可愛いですよね」

「君がね」

「えっ…あっ」

ハロちゃんごと零さんに抱き上げられてしまった。

「これでハロに嫉妬しなくて済む」

「零さん…」

零さんが笑って私の頭を撫でる。
ハロちゃんが自分もというように頭を上げたので、ハロちゃんのことも撫でてあげると嬉しそうにしていた。
本当に零さんのことが大好きなんだな、と微笑ましい気持ちになる。

零さんに保護される前は、零さんに手当てしてもらったのが嬉しくてわざと無茶なことをして零さんに助けてもらっていたそうだから、その頃からもう激しく零さんラブだったのだろう。
気持ちはよくわかる。

とはいえ、私もいつまでも零さんに甘えているわけにもいかない。

「零さん、ハロちゃんは私が見ていますから先にシャワー浴びてきませんか?」

「そうだな、そうさせてもらおうか」

私とハロちゃんをソファに降ろして零さんが立ち上がる。

「もう着替え用意してありますから、ゆっくりしてきて下さい」

「準備がいいな。ありがとう」

それはもう、この日のために念入りにシミュレーションしてきましたから。

今日は零さんにゆっくり寛いでもらうと決めているのだ。

零さんが脱衣所に入って行ったのを見届けて、ハロちゃんに骨のおやつをあげた。

「ハロちゃん、零さんにゆっくりして貰うために協力してね」

「アン!」

ハロちゃんには足元にいて貰って、骨を噛み噛みしてるハロちゃんを視界に入れつつ、夕食の支度をする。
零さんが来る前に下ごしらえをしておいたので、あとは簡単なものだ。

「ハロちゃんは本当にいい子だね」

手際よく調理しながら褒めると、ハロちゃんは尻尾を振っていた。

「よし、出来た」

出来上がった料理を皿に盛り付け、テーブルに運んでいると、零さんが戻って来た。
丁度良いタイミングだ。

「零さん、ご飯出来てますよ」

「えっ、早いな。もう作ったのかい?」

「はい、ゆっくり食べて下さい」

「ありがとう、いただくよ」

「ハロちゃんもご飯あげようね」

「アン!」

ハロちゃんにドッグフードとお水をあげてからテーブルについた私は、零さんのグラスにお酒を注いだ。

「なんだか、急に成長したみたいで少し寂しいな。まだまだ俺が甘やかしてあげたかったのに」

「私も甘やかされるだけじゃなくて、零さんを甘えさせてあげたいんです」

「言ったね。それなら今日はとことん甘えさせてもらうとしよう」

「どんと来いです」

甘えてくれたというより、ただイチャイチャしただけのような気もするけれど、とりあえず目標は達成したので満足だ。

すっかりうちに慣れたハロちゃんは、零さんにじゃれたり私と遊んだりしたためか、その夜はぐっすり寝ていた。

零さんも久しぶりに安眠出来たみたいで良かった。


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