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海があるのだから当たり前かもしれないが、こちらの世界にも横浜があって、みなとみらいのような臨海地域もあり、そこには大観覧車などのデートスポットが立ち並んでいた。

何だか懐かしい気分になって辺りを見回す私はきっと地方から来た観光客に見えたことだろう。

「そんなに一度に全部見ようとしなくても、ちゃんと案内してあげるよ」

零さんに苦笑されてしまった。
私の指に指を絡めて恋人繋ぎをした彼は、言葉通りこの町を案内してくれた。

「向こうにある遊園地は規模は小さいけれど、小さい子供からカップルまで人気があってね、いつも賑やかなんだ」

ホテルやショッピングモールが入っている階段状に並んだビル群を背にして、海側にある遊園地を指して零さんが言った。

「遊びたい?」

「遊園地より大観覧車のほうが気になります」

「さすがお目が高い。あれは万博の時にある財閥によって建てられた、この町のシンボル的存在なんだ」

「えっ、もしかして鈴木財閥が建てた的な?」

「ご名答」

海にかかった橋を渡って大観覧車に辿り着くと、そこには既に列が出来ていた。
と言っても、某鼠のテーマパークの行列に比べればまだ大丈夫といった感じの人数である。
早めに家を出て良かった。

「20分待ちか」

「お話してたらあっという間ですね」

「君がそういう女性で良かったよ」

零さんとお喋りしている間に順調に進んで行き、大観覧車のすぐ目の前までやって来た。
こうして間近で見ると本当に大きい。
それに、見れば見るほどコスモクロックにそっくりだ。

「なまえ、乗るよ」

「あ、はい」

係員の指示に従って大観覧車に乗り込む。
零さんが手を引いて乗せてくれた。

「怖くないかい?」

「大丈夫です」

自然と、同じ側に二人並んで座ると、ドアを外側からロックされたのが見えた。
密室になったんだなと思うとちょっと息苦しさを感じたが、すぐにおさまった。

「二人きりだね」

ぴたりと身体を密着させて座った零さんがそんなことを言い出したので。

「ほ、他のゴンドラから見えちゃう…」

「へえ、他の人に見られたら困るような何を想像したんだい?」

「零さんの意地悪!」

「ははっ」

ごめんごめんと謝った零さんに素早くキスをされて、それですよ!それ!と言いたくなった。

「ほら、海が見えるよ」

「わあ、凄い!」

私達を乗せたゴンドラは高く高くのぼっていく。
その窓からは、下に広がる深い青色をした海がよく見えた。
すぐ近くをカモメが飛んでいく。

「元の世界が懐かしくなった?」

その時、私はどんな顔をしていたのだろう。

少なくとも、零さんにこんな切ないような顔をさせるつもりは全くなかった。

「ちょっとだけ。でも、いまは零さんが傍にいてくれますから」

「ああ、頼まれても離してあげないよ」

零さんに肩を抱かれて身体を寄せ合う。
お互いのぬくもりを確かめあうかのように。

「もしかしたら、僕がこの世界に君を繋ぎ止めているのかもしれない」

零さんがぽつりと呟いた。

「考えなかったわけじゃない。僕が解放してあげたら、君は元の世界に戻れたのかもしれないと。でも、どうしてもそれだけは出来ない。無理なんだ」

零さんの手が肩に食い込むほど強く引き寄せられる。

「それが罪だと言うなら、僕はとんでもない大罪人になるな」

「零さんの傍にいたいって私も望んでいますから、私も同罪ですよ」

「ごめん、なまえ。ありがとう」

「私こそありがとうございます。こんな風に零さんに想われてとても幸せです」

「何があっても絶対に君を逃がさないと心に決めている怖い男でも?」

「そんな零さんが大好きです」

その時、ゴンドラが観覧車の頂点に辿り着いた。

「愛してる」

零さんにキスをされて目を閉じる。

再び目を開けると、ゴンドラは既に下降を始めていた。

隣のゴンドラに乗っているカップルがちらちらとこちらを気にしているのが見えた。
たぶん、あの二人キスしてたよ、などと話しているのだろう。

「この後は赤煉瓦倉庫に行こう。ガラス工房があるから、記念に何か買ってあげるよ」

「記念?」

「デートの記念。ちょっとはしゃぎすぎかな?」

「いえ、嬉しいです。せっかくだからペアになるものがいいな」

「ああ、そうしよう」

手を繋いで海を渡った先にある赤煉瓦倉庫まで歩いて行き、ガラス工房でペアの何を買ったかは、私達だけの秘密。



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