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「零さん」

「いやだ」

「あの、」

「絶対に別れない」

取り付く島もないとはこのことだ。
それにしても、まだ別れましょうとも何とも言っていないのに、どうしてだろう?
雰囲気で察したとか?
だとしたら怖すぎる。
相変わらず勘の良い人だ。

しかし、ここで挫けてしまうわけにはいかない。
クローゼットの中でどっきりの看板を持って待機している風見さんのためにも頑張らなくては。

「ご、ごめんなさい」

「何故謝るんだい?」

「実は、他に好きな人が出来て…」

「クローゼットの中にいる風見のわけはないな。彼にそんな真似は出来ない」

「ヒッ」

風見さんの存在がバレていた。
すっかり怖じ気づいてしまった私は、洗いざらい話すことにした。
少年探偵団のメンバーに「安室さんを引っかけてみて!」とおねだりされたこと、明日彼らがポアロに零さんの様子を見に来ることなど、全て正直に話した。

「あの子達の仕業か…まったく、困った子達だ」

髪をかき上げて零さんが溜め息をつく。
その色っぽいことと言ったらもう、既に彼の奥さんであるはずの私が結婚して下さいと縋りつきそうになるくらいだった。

「ごめんなさい、零さん。でも全然取り乱さなかったですね」

「当たり前だろう」

それはまあ考えてみれば、トリプルフェイスであらゆる人間を相手に安室透を演じている人が、この程度のことで動揺なんてするわけもないか。

「何があっても君を離す気はないからね。何を言われようが動揺することはないさ」

ごめんなさい。
その揺るがなさがちょっとだけ怖いです。

「僕から離れようとする悪い子にはお仕置きが必要だな」

「えっ、でも、それは嘘というか、あくまでもどっきりなわけで」

「問答無用」

「わ、わっ!」

零さんに抱き上げられ、突然の浮遊感に慌てて彼の首に縋りつく。

「風見、いま出て来ないと永久にクローゼットの中で暮らすことになるぞ」

「も、申し訳ありません!降谷さん!どっきり!どっきりですから!」

クローゼットから飛び出して来た風見さんがどっきりの看板を盾にするようにして玄関のほうへ後退っていく。

「ああ、明後日庁舎で会おう」

「はっ、失礼致します!」

玄関から出て行く風見さんを見送る。
巻き込んでしまって本当に申し訳ないです。

「さて」

零さんが私の耳朶を軽く食んだ。
甘ったるいけれど、だからこそ寒気がするような恐ろしさを秘めた声音で囁く。

「ベッドに行こうか、なまえ」


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