一緒に暮らしていても男女でそれぞれ別のシャンプーを使うという人もいると思うが、私と零さんは同じシャンプーとボディソープを使っている。 零さん曰く「君から僕と同じ匂いがすると興奮する」のだとか。 照れくさそうにしながらそう告白してくれた時は思わず身悶えそうになった。 だからお風呂上がりに襲われることが多かったのか。 今日も後ろから抱き締めてきたかと思うと、洗い立ての髪の匂いをくんくん嗅いでいる。 「零さん…これ、恥ずかしいです…」 「ん?どうして?」 「だって、洗ったばかりとは言え、匂いを嗅がれるのは恥ずかしいですよ」 「慣れてもらうしかないな」 零さんはそう言うけれど、恥ずかしいものは恥ずかしいんです。 「零さん、喉渇いたでしょう。麦茶冷えてますよ」 「んー」 零さんは今度は首筋に顔を埋めてすんすん匂いを嗅いでいる。 「僕と同じ匂いがする」 と呟いて、ご満悦な様子だ。 「そうだ、アイス食べましょう!アイス!」 「アイス?」 「お風呂上がりに食べようと買っておいたんですよ」 零さんを離そうとするが、腕の力はいっこうに緩まない。 「零さん、ちょっとだけ離してもらえませんか?」 「片時も君と離れていたくないんだ」 視覚だけでも充分な破壊力があるのに、それを切なげな声音で言われるのだから堪らない。 普段他人に甘えるような人ではないとわかっているだけに、突き放すことは出来なかった。 零さんを後ろにくっつけたまま冷蔵庫まで歩いていく。 離してくれないので仕方がない。 「これは…」 「あ、やっぱり食べたことあります?懐かしいなと思って、つい買っちゃったんですよ」 それは双子のように二つのアイスがくっついているもので、友達や家族と半分こして食べるのが一般的とされているアイスだった。 「懐かしいな。僕も学生時代、あいつと半分ずつ食べたよ」 「そうだったんですか」 名前を出されなくても誰のことかわかる。 零さんも、私がわかると知っているからあえて名前を出さなかったのだろう。 名前を呼んだら切なくなってしまうから。 溢れ出した想い出が零さんを悲しませない内にと、アイスを半分こにして片方を零さんに渡した。 容器の天辺の部分を切り取って、開いた所を口に含む。 ちゅうちゅう吸い上げると、シャーベット状のアイスが口の中に入ってきた。 「美味しいですね」 「ああ、懐かしい味がする」 アイスを食べ終えたら二人で寝室に行こう。 そして、零さんが過去の夢に囚われてしまわないように、抱き合って眠ろう。 たまにはこんな夜があっても良いはずだ。 |