零さんは一見すると、明るい髪色に褐色の肌の美青年という目立つ容姿をしているのだが、人混みや空間に紛れ込むのが巧い。 風見さんでさえ一瞬目を離した隙に見失ってしまうのだから、さすがというよりほかない。 そのせいで、私はいま困っていた。 一緒にショッピングモールまで買い物に来たのだが、ちょっと化粧室に行って戻って来たら零さんの姿が見つからないのだ。 今日は月曜日だけど、大型のショッピングモールということでかなり混んでいる。 恐らく逆ナンされないように気配を消して人波の中に紛れているのだろう。 そうだ、電話してみよう。 「ちょっといいかな」 そう思ってスマホを取り出そうとした時、不意に見知らぬ男性に声をかけられた。 「君、一人?良かったら一緒に映画でも観に行かない?」 「いえ、夫と来ているので…」 「えっ、人妻?ラッキー!俺、人妻大好きなんだよね」 ひえぇっ! 人妻と聞いて引き下がるどころか逆に食いついて来た! 「ねえ、ちょっとだけでいいからさ。俺と遊ぼうよ」 「やめて下さい。困ります」 「ンン、困った顔も可愛いねぇ」 「残念だけど、その可愛いひとは僕の妻なので諦めて下さい」 にこにこと。 人好きのする笑顔を浮かべた零さんが、いつの間にか男性の背後に立っていた。 「なんだぁ、てめぇ?」 「手荒な真似はしたくない。今すぐ立ち去れ」 零さんが低く忠告する。 「っ!!」 他の人には見えなかっただろうけど、私はバッチリ見てしまった。 零さんが男性の手を後ろ手に捻り上げるのを。 それ、知ってます。 容疑者確保の時の逮捕術ですよね。 男性は声にならない悲鳴をあげたかと思うと、あたふたと走り去ってしまった。 「まったく…ちょっと目を離したらこれだ」 「ご、ごめんなさい…」 安室さんモードで怒られると、罪悪感が凄い。 私としてはひたすら謝るしかない。 「本当にわかっていますか?僕がこんなに怒っている理由を」 「つけ入る隙を見せるな、ですよね」 「わかっているなら良い。今日のところは許してあげますよ」 零さんに引き寄せられて頭を撫でられる。 よしよしと優しくされると涙が出そうになった。 突然の出来事のせいで気づかなかったが、実はかなり不安になっていたようだ。 「怖かったでしょう。一人にしてすみませんでした」 「気配を消した零さん、どこにいるか全然わかりませんでした」 「すみません。しつこく話しかけてくる女性がいたので」 「もう離れないで下さい」 「もちろん。嫌だと言っても離してあげませんよ」 その後は、ずっと零さんと手を繋いだまま、楽しくショッピングを続けた。 それにしても、ナンパ男から助けてくれた時の零さん、かっこよかったなあ。 そんなことを言えばまた怒られてしまうのはわかっているので、この気持ちは胸にしまっておこう。 そして、今度風見さんに聞いてもらおう。 |