零さんにドライブに誘われた。 コナンくんと蘭ちゃんも一緒だそうだ。 「気分転換になるだろう?君の好きなハムサンドも作るから」 そう言う零さんは、グレーのシャツを着ていて、下は淡いイエローのパンツ姿だった。 コナンくん達とドライブと言うことでお気付きの方もいるかもしれないが、これにサングラスを加えれば、某アニメ雑誌の表紙を飾った時のイラストになる。 「君はこれがいいな。この前買ったグリーンのカーディガンに合いそうだ」 零さんが選んでくれたのはレースをふんだんに使ったオフホワイトのワンピース。 確かにカーディガンに合いそうだけど、そうなるとやっぱり私と蘭ちゃんが後部座席で、コナンくんが助手席になるんだろうか。 そうだった。 「では、出発します」 「安室さん、安全運転でね」 助手席のコナンくんがそう釘を刺したのは、この前の無人探査機『はくちょう』の帰還を利用した例の事件のことがあるからだろう。 あの時の零さんは確かに無茶な運転ばかりしてぶっ飛ばしてたからなあ。 でも、あの事件についてはコナンくんも最後かなり無茶をしていたからおあいこな気がする。 そんな事情など何も知らない蘭ちゃんは、無邪気に「安室さん、運転上手だよ?」とコナンくんに微笑みかけていた。 いえいえ、蘭ちゃん、零さんは犯人を追い詰めるときなど、時折狂気的なドライビングテクニックを披露してくれるんですよと教えてあげたい。 しかし、にっこりした零さんに、視線で、余計なことは言わないようにと釘を刺されてしまった。 わかっています。今日は安全運転で行くんですよね。 「では、安全運転で出発!」 「出発!」 車は滑るようになめらかに発進した。 一度高速に乗り、途中サービスエリアで休憩してから高速を降りて、海岸線の見えるドライブコースへ。 「見て、コナンくん!海だよ!」 「わあ、綺麗だね!」 はしゃぐ蘭ちゃんに合わせてコナンくんが太陽の光を受けてキラキラと輝く海に目を向ける。 どこまでも続く紺碧の海は美しく、零さんの瞳のようだと思った。 いや、どちらかと言えば、青く澄みきった空の色のほうが近いだろうか。 どちらも大好きな色だ。 そんなことを考えていたら、ルームミラー越しに零さんと目が合った。 海よりも青く、空よりも澄んだ綺麗な瞳が、私を見てにこやかに細められる。 ああ、幸せだなあ。 「なまえさん、あれを」 海が見渡せる駐車場に車を止めて、零さんが言った。 「はい。蘭ちゃん、コナンくん、ハムサンド食べよう」 「安室さん、作って来たの?」 「うん、いつもの味で悪いけど」 「そんな!凄く美味しいですよ!ありがとうございます」 蘭ちゃんがいい子すぎて涙が出そうだ。 さすが、ヒロイン。 コナンくんに愛されるだけあって優しい子である。 ウェットティッシュで手を拭いてから、ハムサンドをぱくり。 「美味しい!」 「やっぱり、安室さんのハムサンドは最高ですね」 「そんなに褒められると照れちゃうな」 「あ、コナンくん、お口についてる」 「ちょ、蘭姉ちゃん、一人で拭けるよ!」 甲斐甲斐しくコナンくんのお世話をする蘭ちゃんを微笑ましく見ていると、零さんが期待のこもった眼差しで私を見ていた。 これはアレですね。 私にも同じことをやれと。 「あ…安室さん、お口についてますよ」 「えっ、ほんとだ。なまえさん、拭いてくれますか?」 「もちろんです」 私がウェットティッシュで零さんの口元を拭いていると、コナンくんが何とも言えない表情で私達を見ていた。 さすが、名探偵。 安室さんのわざとらしい演技なんてお見通しのようだ。 「もう、お二人ともラブラブなんですから!」 蘭ちゃんだけが楽しそうに囃し立ててくる。 コナンくんがひきつり笑いしてるよ…。 「少し、浜辺に降りてみましょうか」 「賛成!」 私達は車を降りて、まだ人の少ない浜辺を散歩した。 さすがに波打ち際で追いかけっこはしなかったが、蘭ちゃんと二人で波打ち際ギリギリまで行って、打ち寄せる波に足を濡らされてはしゃいだり、零さんとこっそり手を繋いで歩いたりして、とても楽しく過ごした。 今日のことは決して忘れない。 かけがえのない想い出の一つとして、いつまでも私の胸の奥で輝き続けるだろう。 |