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「なまえさんはミルクのような人ですね」

隣に座る安室さんが言った言葉に首を傾げるが、彼は構わずにこう続けた。

「バーボンとミルクは相性がいいんですよ」

それは、私が安室さんがバーボンだと知っていることを“知っていますよ”というメッセージでしょうか。

その笑顔が怖い。

先日のことだ。
ポアロに行った時にうっかり口を滑らせてしまった自分を呪った。
明らかに何者なのかと怪しまれている。

それはそうだろう。
降谷さんが安室透として組織に潜入し、バーボンというコードネームで呼ばれていることを知っている人間は、たぶん赤井さんとコナンくんだけのはずだ。
少なくとも、安室さんの認識としては。

それが、突然現れた見知らぬ女が自分の正体を知っているかもしれないとなったら、疑われるのは当然のことだ。

恐らく、私は今、組織の関係者ではないかと疑われているのだろう。

「3、2、1…ゼロ!」

わっと歓声が上がる。
見れば、後ろのテーブル席で何かのお祝いが行われているようだった。

“ゼロ”にびくっと反応してしまったのも、きっと安室さんには気付かれてしまっている。

どうしよう。

なんて説明すればいい?

私はこことは違う世界から来たので、あなたのことは漫画で読んで知っていますって?

馬鹿馬鹿しい。

そんなことを言えるわけがない。

頭のおかしい女だと思われるだけだ。

「ゼロ、という言葉がお好きなんですか?」

「いえ、ゼロというか、零というか…」

しまった。
またやってしまった。

安室さんの目がすうっと細められるのを見て血の気が引いた。

「あの、私、そろそろ帰らないと」

「どこへです?」

「どこって…」

「あなたには帰る家がない。ここ数日はビジネスホテルに泊まっているようですが」

「!?」

「正直に話してくれれば悪いようにはしません」

「え…えっと…その…」

「あなたは何者なんですか?何故、僕のことを知っている?」

ひえええ!

降谷さんが本気モードだ!!

「すみません!ごめんなさい!」

わざと大声で謝る。
思った通り、バーの中にいる客達の視線が集まったのを良いことに、私は全速力で逃げ出した。

「なまえさん!」

安室さんの声が聞こえてくるが、申し訳ない。止まれません。

タクシーを拾い、飛び乗ると同時に店から安室さんが飛び出して来た。

「追われてるんです!急いで米花ホテルまでお願いします!」

「わ、わかりました」

運転手さんは焦ったように答えて車を発進させてくれた。

助かった…。

私はシートに沈み込んで詰めていた息を吐き出した。

ホテルにはすぐに戻れた。

辺りを見回し、部屋に入る。
どっと疲れが押し寄せてきて、ベッドに倒れこんだ。

すると、ノックの音が。

「苗字様。お荷物をお預かりしています」

「あ、はい。今開けます」

ドアを少し開くと、ガッ!と隙間に足を入れられた。
そのまま強引にドアを開けられ、中に滑り込んで来たのは。

「逃げられると思ったんですか?」

妖しい微笑を浮かべた安室さんだった。

「洗いざらい吐いてもらいますよ。どんな手を使ってでも、ね…」

だ、誰か!助けて!


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