今日は零さんから外出許可が出たので、久しぶりに一人で買い物に来ている。 ちょっと遠出をして、電車で二駅先のショッピングモールまで足を伸ばしたのは、ここなら殆どの用事を済ませられるからだ。 比較的新しく出来たところのようで、映画館やスケートリンクがあり、中の造りがゾンビ映画に出てきたショッピングモールに少し似ている。 午前中は敷地内にある映画館で映画を観た。 最近公開されたばかりのアクション映画で、シリーズものの最新作だ。 映画館の薄暗い館内に入ると、懐かしい思いがドッと押し寄せてきた。 足元のランプを頼りに、購入したチケットの座席番号を探しながら、そういえば元いた世界ではこうして何度も映画館に通ったなと懐かしく思った。 『ゼロの執行人』が上映されていた時には、1ヶ月の内に何度も繰り返し観に来ていたものだ。 ファンの間ではそれを“執行された”“安室さんの女になった”と言われていたのも懐かしい思い出だ。 「風見さん、良かったら一緒にカフェでお茶しませんか?」 映画を見終わり、続々と外へ出ていく人々の中から目当ての人物を見つけ、その背中に声をかけると、彼は驚いたように振り返った。 「気付いていたんですか……一体、いつから?」 「零さんが外出許可を出してくれた時から」 「…すみません」 「謝らないで下さい。護衛が必要な立場なんだってちゃんとわかっています」 渋る風見さんを半ば強引に近くのカフェに連れ込んだ。 向かい合わせに座った風見さんは、何だか居心地悪そうにしている。 「こんなところを見つかったら、降谷さんになんて言われるか…」 「零さん、意外と焼きもちやきですよね」 「わかっていてこんなことをするあなたが恐ろしいですよ」 風見さんはコーヒーをぐいと煽って、深々と溜め息をついた。 優秀な彼の頭の中では、零さんに叱責され、お説教を食らう自分の姿がはっきりと思い描かれているのだろう。 改めて苦労人だなあと思う。 「こっそり尾行されるくらいなら、堂々と一緒にお買い物に付き合って下さるほうが安心です」 「しかし…」 「もう気付いちゃったんですから、今更後ろからついてくるのなんて無しですよ、風見さん」 「…また降谷さんに公安失格だと言われてしまいますね」 再び溜め息をついた風見さんは、それでふっ切れたのか、お買い物に付き合ってくれた。 「風見さん、これはどうですか?」 「いえ、それなら、こちらのほうがお似合いかと」 「じゃあ、こっちにしますね。ありがとうございます」 一人でのんびり見て回るのも良いが、誰かと一緒にお買い物をするのも良いものだ。 買い物が終わると、マンションまで荷物を運んでくれたので、とても助かった。 実はちょっとあてにしていたのは内緒だ。 「お帰り、なまえ」 玄関のドアを開けた途端、零さんに出迎えられて、ちょっと驚いた。 風見さんは凍りついている。 まさか先に帰っているとは思わなかった。 「久しぶりの買い物は随分楽しかったみたいだね。風見が一緒だったからかな?」 零さん、笑顔が怖いです。 「風見。僕は、彼女に気付かれないように見張れと言ったはずだが」 「す、すみません、降谷さん!」 「一般人に尾行を気付かれるなんて公安失格だと思わないか」 「は、はいっ、申し訳ありません!」 「零さん、怒らないであげて下さい。私が無理にお願いしたんです」 「君に気付かれる風見が悪い」 「降谷さんの言う通りです。本当に申し訳ありません」 「もういい。今日はご苦労だった」 「は、…失礼します」 風見さんが帰ってしまうと、当たり前だけど零さんと二人きりになってしまった。 「早く中に入っておいで」 「ハイ」 玄関先でぐずぐずしていた私は、零さんに言われて靴を脱いで室内に入った。 恐らく、バーボンとしてベルモットと会って来た帰りなのだろう。 腕組みをして私を見下ろしている零さんは、いわゆるミストレの時の服装をしている。 「君の好きな格好だ。そうだろう?」 しゅるりとネクタイを解きながら零さんが笑う。 「風見には後で説教をするとして。君にもお仕置きが必要だな」 「れ、零さん、あの」 「僕は自分で思っていたよりも嫉妬深い男だったらしい。悪いが、覚悟してくれ」 ふえぇ…! |