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零さんは多忙な人だ。
けれども、私が居候するようになってからは何かと理由をつけて一緒にいる時間を作ろうとしてくれている。

それに加えて、食事に関しては、なるべく彼が作るということになっていた。
私は特に料理上手というわけでも下手くそなわけでもないが、明らかに零さんのほうが上手いので素直にお任せしている次第だ。
何より、夢にまで見た本物の降谷零の手料理を食べられるのである。
断る理由があるはずがない。

「このだし巻き玉子最高に美味しいです」

「そうか。口に合って良かった」

はじめにも言ったが、零さんは多忙な人だ。
以前、向こうの世界で“安室さん”とLINEをしていた時に知っていたが、出汁は昆布と鰹節を使って大鍋で一度にドバっと1週間分ほど作り置きしておき、耐熱の冷水ポットに入れて冷蔵庫に保存してある。
出汁は料理の基本というだけあって、大抵のものに使えるので重宝しているようだ。
私も一度それを使って料理を作らせてもらったことがあるけれど、さすがの美味しさだった。

ちなみに、『麦茶と間違えて出汁を飲んでしまったヤツ』が赤井さんだったのかどうかは怖くてまだ確かめていない。

「零さんの作る料理は美味しいだけじゃなくて、ちゃんと栄養のことも考えられているんですよね、凄いです」

「そう褒められると悪い気はしないな。ありがとう」

照れくさそうな零さんの素の笑顔が見られるのも、私だけの特権だと思っている。

「そうそう、向こうの雑誌に零さんのグラビアが載ってたんですよ」

「…グラビア?」

「ちょっと待って下さいね」

怪訝そうな顔をする零さんに、スマホを取り出して見せる。
購入した雑誌のポスターが色褪せる前にとスマホで撮って保存しておいたのだ。

「これです」

「見覚えのある服装なのに撮られた覚えがないというのは奇妙な感じだな…」

「ファンの間では最高にセクシーだって好評でした」

「君もこういうのが好みなのか?」

「私はこの零さんはバーボンかなって」

「質問の答えになっていない」

公安のエースこわい。

「本物の零さんのほうが断然素敵です」

「へえ…」

尋問口調になった零さんにビビりながら本音を言うと、彼は凄みのある微笑を浮かべて、しゅるりとネクタイを解いた。

「まあ、それは直接、君の身体に聞くとして」

「零さん!お仕事!お仕事遅れますよ!」

「まだ時間はある」

まるで見せつけるようにぷちぷちとシャツのボタンを上から外していく零さんから後退る。

「零さん、お疲れでしょう?余計疲れちゃいますよ!」

「いや、むしろ癒される」

零さんは私の腕を素早くネクタイで縛り上げた。
そのまま私を押し倒して耳元で囁く。

「なまえ…僕を癒してくれ」

「マッサージ!マッサージしますから!」

「往生際が悪いぞ」

拘束された腕でブロックしようとするが、片手で容易く頭の上でまとめ上げられてしまった。

「僕の知らない僕に、君が惹かれていたという事実が気に入らないんだ」

「そんなこと言われても…!」

「静かに」

有無を言わせず唇を奪われる。
巧みで濃厚な口づけで私を黙らせた零さんが邪魔だとばかりにジャケットを脱ぎ捨てた。

「聞かせるなら、可愛い喘ぎ声にしてくれ」

「ん…、はぁ、んっ!」

私の首筋にキスをして顔を埋めた零さんが、私のカットソーをたくしあげる。
下着越しに胸を揉みしだかれ、首から鎖骨にかけて何度も吸い付かれて、甘ったるい声が漏れてしまう。

零さんがブラをずらしたその時、彼のスマホが鳴った。

「…チッ」

零さん、舌打ちしたら怖いです。

身体を起こした零さんがスマホを取り出して通話を始めた隙に、拘束されたままの不自由な腕で何とか乱れた服装を整える。

緊急の呼び出しだったのだろう。
通話を終えた零さんがジャケットを羽織りながら毒づいた。

「覚えてろよ、風見」

風見さん、逃げて!


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