雄英を卒業すると同時に、ヒーロー科の生徒達は学校の寮を出た。 その進路は様々だ。 大学のヒーロー科に進学した者もいれば、サイドキックとして事務所に所属することになった者もいるし、小さいながらも自分の事務所を構えた者もいる。 私はと言えば、ヒーロー業を早期引退した両親から譲り受けた家をシェアハウスとして開放し、その同居人達と共同生活を送りながら所属している事務所の雑用をこなす毎日を送っていた。 「今日はなまえが食事当番か」 「そうだよ。お帰り、焦凍くん」 「ただいま」 くんくんと匂いを嗅いで、焦凍くんが私の肩口から手元を覗き込む。 焦凍くんのサラサラの髪が頬を掠めた。 距離が近くてちょっと恥ずかしい。 「いい匂いがする」 「ん?バターの匂いかな?今日は真鯛のポワレをメインに、春菊のクリーム煮とホタテのソテーにしたけど、いい?」 「お前が作ったものなら何でも食べる」 焦凍くんはこうして時々無意識に女心を撃ち抜いてくるからタチが悪いと思う。 「そういうこと言うと勘違いしちゃうよ。毎日君の味噌汁が飲みたい、みたいな感じで」 「それでいいのか」 「え?」 「なんて言おうか悩んでたから、ちょうど良かった」 焦凍くんが私の肩を掴んで自分に向き直らせる。 真剣な眼差しにドキッとした。 「毎日なまえが作った料理が食べたい」 「おい、テメェ!抜け駆けしてんじゃねぇ!」 ドカッ!とドアを蹴り開けた爆豪くんが叫んだ。 相変わらず豪快なご帰還だ。 「爆豪くん、お帰りなさい」 「おう」 足音荒くやって来た爆豪くんは、私から焦凍くんをベリッと引き離した。 「邪魔すんな、爆豪」 「ふざけんじゃねぇ。こいつは俺のもんだ」 「なまえがいつそう納得した?デタラメを言うな」 「雄英にいた頃から目ぇつけてたに決まってんだろ。なまえは俺の女だ。でなきゃこの俺がこんなショボい家に居座るかよ」 「ひどい、爆豪くん」 「そうだぞ、謝れ爆豪」 「話逸らすんじゃねぇ!」 「爆豪くん、先にお魚焼いていい?焦げちゃう」 「今それどころじゃねぇのわかってんのか?お前は!」 食事の支度に戻った私の傍らで言い争っていた二人は、「上等だ!表出ろ!」という爆豪くんの声とともに外に出て行った。 その間に手早く夕食の準備を済ませてしまう。 焦凍くんと爆豪くんは、雄英を卒業した後それぞれ自分の事務所を構えた。 私がシェアハウスを始めたのを知ると、即入居してくれたのもこの二人だ。 事務所に近いからという理由だったが、それだけではないことはすぐにわかった。 好意を寄せてもらえていることは何となく気がついていたけれど、こうして言葉ではっきり示されたのは初めてだ。 「だから、そういうのは直接本人に言えって!」 切島くんの声が聞こえてくる。 帰って来たら二人がバトってたので、驚いて宥めてくれたのだろう。 二人を止められるのは、緑谷くんと切島くんくらいのものだ。 「あー、腹減った!メシだ、飯!」 「なまえ」 「うん、もう用意出来てるよ」 とりあえず、私へのプロポーズまがいのアレこれはひとまず置いておくことにしたらしい。 それぞれ自分の定位置である席に腰を下ろし、ばくばく食べ始めた二人を眺めていたら、切島くんと目があった。 おい、こいつらどうするんだよ、とその目が聞いてくる。 本当にこれからどうしよう。 |