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焦凍くんは昔からモテた。
中学のバレンタインの時は下駄箱にチョコがぎっしり詰め込まれ、それでもまだ入れようとするので段ボールが必要になったくらいだ。

雄英に入ってからもそれは変わらないと思っていたのだが。

「あれ?焦凍くんチョコは?」

「いらねぇから断った」

「下駄箱のは?」

「峰田にやった」

「全部!?」

「ああ」

待ち合わせ場所に手ぶらで現れた焦凍くんは、何故そんなことを聞かれるのかわからないといった様子でそう答えた。

「だって、お前怒るだろ」

「怒らないよ」

「でも嫌だろ」

「それは…まあ…」

「だから貰わなかった」

もっと喜ぶかと思ったのに、と私に手を差し出す。
私は反射的にその手に自分の手を重ねた。

「違う。いや、手を繋ぐのは別に構わねぇけど、そうじゃねぇ」

「ん?」

「まだお前から貰ってない」

「え、あ、チョコか!ごめんね。はい、これ」

鞄の中からチョコの箱を取り出して焦凍くんに渡す。

「いつも仲良くしてくれてありがとう、焦凍くん」

「なんだそれ。礼なんかいい」

「でも、小さい頃からずっと幼なじみとして付き合ってくれてるから」

「当たり前だろ。お前は特別なんだから」

「ありがとう。そう言ってもらえるだけで嬉しい」

焦凍くんにとって私はもう家族みたいなものなんだろう。
そう考えるとくすぐったいような気持ちを感じると同時に少し寂しくもあった。
幼なじみは恋人にはなれない。そう言われたみたいで。

「お前、何か変なこと考えてねぇか?」

「へ、変なことって?」

「俺はお前が好きだ。だからお前からチョコを貰えて嬉しいし、お前以外からのチョコはいらないと思った」

「…うん」

「本当にわかってるか?」

「ちゃんとわかってるよ」

「じゃあ、いいよな」

焦凍くんはそう言うと、私の両肩を軽く掴んで引き寄せた。
そして、整った顔を少し傾けるようにして近づけてくる。
私は咄嗟に手で焦凍くんの口元を押さえた。

「……なまえ」

「だ、だって!口がくっつきそうだったから!」

「キスしようとしたんだ。当たり前だろ」

「ええっ!?」

「やっぱりわかってなかったじゃねぇか」

焦凍くんは溜め息をついた。

「お前、鈍すぎ」

これにはちょっとムッとした。
ちょっと天然なところのある焦凍くんには言われたくない。

「お前が好きだ」

「う、うん?」

「俺と付き合ってくれ」

いいよ、どこに?というボケはさすがに口に出せなかった。
だが、そのぶん衝撃的過ぎてあわあわとしてしまう。

「えっ、でもっ」

「嫌か?」

「嫌じゃない!けど!」

「昔からずっとお前が好きだった」

焦凍くんが私の頬を撫でて言った。

「本当はヒーローになるまで告白しないつもりだった。でも、雄英に入って信頼出来る仲間が出来て、お前にも別の友達が出来て……俺から離れていくんじゃないかと思うと急に不安になった。だから」

きゅうと抱きしめられる。
焦凍くんの身体は硬くてあったかい。私とは違う男の子の身体。

「好きだ、なまえ。これからもずっと俺の側にいてくれ」

「うん…うん、焦凍くん」

私も焦凍くんの背中に腕を回して抱きしめ返した。

「大好き」

これからもずっと一緒だよ。


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