連休を利用して焦凍くんの家に泊まりに来ている。 他でもない焦凍くん本人に誘われたのだ。 幼なじみなので小さい頃はよくお泊まりしていたが、さすがにもうこの歳で同じ感覚でいられるわけがない。 それなりに緊張して訪問したのだけど、そんな自分が馬鹿馬鹿しくなるほど焦凍くんはいつも通りだった。 「荷物はこれだけか?」 「あ、大丈夫、自分で持って行けるから」 「いい。遠慮なんかするな」 焦凍くんに案内されたのは客室の一つ。 広い御屋敷なので、ちょっと身の置き所がなくなるくらい立派なお部屋だ。 「わりぃ。着いたばっかりで疲れてるかもしれないがちょっと付き合ってくれ」 「うん、いいよ。何?」 「組み手。久しぶりにお前とやりてぇ」 最後の言葉がちょっと危ない気もしたが、こちらに異存はない。 ただ、心配なのは。 「いいけど、私じゃたぶん相手にならないよ?」 「謙遜するな。お前ずっと道場通ってただろ。自主トレしてるのも知ってる」 驚いた。焦凍くんには話してなかったのに。 「それでも焦凍くんには敵わないと思う」 「構わねぇ。お前と手合わせしたいとずっと思ってたんだ」 そこまで言われては引き下がれない。 「いいよ。やろう」 焦凍くんに案内されて家の敷地内にある訓練所に着くと、すぐに手合わせを始めた。 午前中いっぱい対戦したけど、もちろん私ごときが敵うはずもなく、結果は惨敗。 でも、久しぶりに焦凍くんと真っ向から向き合えたし、運動して汗をかくのは気持ちが良かった。 「お陰でいい経験が出来た」 「本当?役に立てたなら嬉しい」 「ああ。体術が出来る女のヴィランと対峙した時にどう注意すべきかとか、な。勉強になった」 お風呂の用意がしてあるということで、遠慮なくお湯をお借りした後は、部屋着に着替えてお茶を手に一息ついた。 「今、いいか?」 「うん」 同じく汗をお風呂で流してさっぱりした焦凍くんが部屋に入って来て、私の前に座る。 「なまえ、アレ持って来てるか?」 「ああ、うん。持ってるよ。今やる?」 「頼む」 荷物から必要な物を取り出して、座布団の上に正座すれば、焦凍くんは待っていたとばかりにごろりと横になり、私の膝に頭を乗せた。 膝枕にちょっとドキッとしないでもなかったが、なるべく平静を装い、彼のサイドの髪の毛を耳にかけてあげてから、竹製の耳かきを手に焦凍くんの耳の中を覗き込んだ。 「外側は綺麗だね。でも奥のほうにちょっと溜まってそう」 「やっぱりそうか。痒い」 「ちょっとだけ我慢して。じゃあ、始めるね」 軽く耳たぶを引っ張り見えやすい位置を確保し、耳かきを耳孔に侵入させる。 まずは入り口あたりをカリカリと。 そこから徐々に奥に向かって掘り進んでいくと、すぐに溜まっていた堆積物の感触にぶつかった。 「そこだ。すげぇ痒い」 「ん、今取ってあげる」 耳かきの匙部分で孔の壁に沿うようにして堆積物をごっそりと掬い上げる。 かなりの大物だ。 それを落とさないように耳の外へ運び出すと、焦凍くんがほっと息をついた。 なんだか無防備で可愛い。 まだ残っているだろう痒みを取り去るために、耳かきでカリカリコリコリと中を擦る。 「相変わらず上手いな、お前。気持ちいい」 「そう?ありがとう」 小さく笑って耳かきを再開する。 「もう少し奥をやるから動かないでね」 「ん……」 焦凍くんは早くもうとうとしはじめている。 私は彼が気持ち良く眠れるように、優しく耳を掻き続けた。 |