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ベイエリアを見渡せるホテルの最上階のスカイラウンジで、その人と会う約束になっていた。

待ち合わせ相手は、ベストジーニスト。
本名は袴田維(はかまだ つなぐ)。

名は体を表すと言うが、彼のヒーロー名は彼の存在そのものを表していた。
彼は名前の通りベストジーニスト賞を8年連続で受賞しており、幅広い世代から人気を集めるファッションリーダーだ。
繊維を自由自在に操る個性の持ち主で、デニムが一番操りやすいため、いつも全身口元までデニムのジーンズで固めたコスチュームを着用している。

その彼が現れてすぐに、私は深々と頭を下げた。

「この度は祖父が無理を申し上げてすみませんでした」

「いや、君のお祖父様には大変お世話になったからね。気にすることはないさ」

そうは言われたものの、罪悪感はなくならない。
ベストジーニストがまだ駆け出しの頃の恩人だという私の祖父は、孫娘可愛さのあまり、彼が断れないのをいいことに一度会って是非お見合いをと彼に頼んだのである。

「お忙しいのに本当に申し訳ありません」

「頭を上げてくれないか。私も今日は楽しむつもりで来ているんだ。楽しい話をしよう」

なんて心の広い人だろう。
さすがNo.4ヒーロー。

「我が家は皆あなたのファンなんです」

私は思わずそう打ち明けてしまっていた。

「今日はこういう席なのでワンピースですが、いつもはタイトなジーンズで気持ちを引き締めています」

「それは良い心がけだ。是非拝見したかった」

目元しか見えないが、ベストジーニストはにっこり微笑んだようだ。
ああ、カメラがほしい。

「早速だが、食事をご一緒しても?」

「はい、是非!」

スカイラウンジのマネージャーは一番良い席に案内してくれた。
美しい夜景が一望出来る窓際の特等席に。

それからはまるで夢のような時間だった。

ベストジーニストは言わずもがな、ファッションに詳しい。
そして幸いにも私はヒーローコスチュームのデザインの仕事に就いている。

自然と話が弾んだ。

食事をするということで、普段は見えない彼の口元を見ることが出来たのも幸運だった。
あらわになった彼の顔をガン見しないように理性を総動員しなければならなかったが。

「職場体験ですか?」

「ああ。私の所にも一人来ることになっている」

「懐かしい。雄英はもうそんな時期なんですね」

「私も君も卒業生だから、我々の後輩にあたるわけだ」

「どんな子なんですか?」

「久々に矯正し甲斐がありそうな少年だよ」

「それは珍しいですね。あなたの事務所の方は皆折り目正しい優等生ばかりですから」

「そう、良い子ばかりでね。だから、雄英祭で目にした彼が強く印象に残ったんだ」

「それは楽しみですね」

「職場体験が終わった後、彼がどうなっているか見物だよ」

ベストジーニストは本当に楽しそうに語った。
丁度食事が終わったタイミングでのことだ。

「あの…一緒にお写真に写って頂けませんか?」

「もちろん構わないよ」

マネージャーにスマホを渡すと、ベストジーニストは私の肩を抱いてポーズを決めた。

「さあ、笑って」

「シュア!ベストジーニスト!」

ぱしゃり。無事撮影が終了してマネージャーからスマホを受け取る。

「ありがとうございます!家宝にします!」

大袈裟だよ、と彼は笑ったが、私は本気だった。

今夜のことは一生忘れないだろう。


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