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「ただいま、なまえ」

「お帰りなさい、焦凍くん」

微かに疲労の色を滲ませて帰って来た焦凍くんを笑顔で迎える。
焦凍くんは私のヒーローで、私の旦那様だ。
同時に、みんなのヒーローでもある。
そんな彼は今日もヒーローとしての活動を終えて帰宅した。

「お腹すいたでしょう?ご飯出来てるよ」

「ああ、ありがとう」

「温めるから先にお風呂入っておいでよ」

「そうする。一緒に入るか?」

「今日はいいよ。疲れてるでしょう?ゆっくりしてきて」

「わかった」

焦凍くんが浴室に向かったのを確認して、小さく息をつく。
脱衣所に着替えを用意してからキッチンに立ち、夕食をあたためた。
そうだ、そろそろお醤油のストックを買って来てもらわないと。

焦凍くんがお風呂から上がってきたので、テーブルに料理を並べた。
がしがしとタオルで頭を拭いていたので、彼の手からタオルを奪い、優しく髪の水分を取っていく。

「ダメだよ。せっかく綺麗な髪なんだから、傷めないようにしないと」

「お前のほうが綺麗だ」

焦凍くんが私の髪を一房手に取って口付ける。

「私より焦凍くんの髪のほうが綺麗だよ」

「お前の髪のほうが綺麗だ」

頑固なのも相変わらずだ。
私は苦笑して彼を座らせた。

「いただきます」

「どうぞ召し上がれ」

きちんと手を合わせてから食べ始めた焦凍くんの髪をドライヤーで手早く乾かしていく。
カチ、とスイッチを切ってドライヤーをしまいに行こうとすると、手を掴まれた。

「後でいい。お前も食べろ」

「うん、いただきます」

あまりお腹はすいていなかったが、せっかくの焦凍くんとの食事タイムなので一緒に食べることにする。

忙しい焦凍くんはなかなかここに帰って来られない。
無論、ヒーローとして活動しているためだ。

「今日は緑谷と飯田と一緒になった」

「路地裏組だね。懐かしい」

「飯に誘われたけどお前が待ってるから断った」

「遠慮しなくて良かったのに」

「あいつらとは仕事でいつでも会えるし、連絡もとってるから問題ねぇ」

「…ねぇ、焦凍くん」

「ん?」

「ううん、なんでもない」

「変な奴だな。言いたいことがあるなら言えよ」

「そうだ、お醤油買って来て」

「ストックか?わかった。明日買って来る」

「今度帰って来られる時でいいよ」

「わかった。…なぁ、なまえ」

「ん?」

「なんでもねぇ」

「変な焦凍くん」

「お互い様だろ」

食事を食べ終わった焦凍くんが手を伸ばしてくる。
学生時代よりもずっと逞しくなった彼に軽々と抱き上げられた。

「軽い。また体重減ったんじゃねぇか」

「女の子に体重の話するなんてデリカシーがないよ、焦凍くん」

「そうか、わりィ」

そうして私達はもつれ合うようにして抱きあった。
まだ生々しく残っている傷跡に焦凍くんが唇を寄せる。

「もう二度とお前を傷つけさせねぇ」

ここには殆ど何でも揃っている。
ネット環境もあるし、テレビもあるから情報を遮断されているわけではない。
それでも『外』から隔離されているのは確かだった。

最後に本物の空を見たのはいつだっただろう。


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