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「焦凍くん、今年は一段と凄いね」

紙袋に入りきらず、片腕に山ほどチョコを抱えた焦凍くんにそう言えば、彼は困ったように首を傾げてみせた。
そんな仕草が一々かっこいい。

「そうか?いつもこんなもんだろ」

困った。彼の普通は普通じゃないと彼はわかっていない。
私の幼なじみがモテモテ過ぎてどうしよう。
いや、今に始まったことじゃないんだけど。
問題はいつもより多いその量だ。

「食べきれそう?」

「わからねぇ。無理なら峰田にやる」

「峰田くんね…」

「あいつ、チョコチョコ言ってたから好きなんだろう」

もはやつっこんだら負けだ。
焦凍くんの天然ぶりはこの際置いておくとして。

「そんなにあるなら私からのはいらないかな」

「なんでだよ。お前から貰えないなら意味がねぇ」

「焦凍くん…」

「頼む。ちゃんと食うから、お前からのチョコ、俺にくれ」

「うん。うん、嬉しい…!」

「?俺が貰うんだから喜ぶのは俺のほうじゃねぇか?」

「好きだよ、焦凍くん」

「ああ、俺もだ」

チョコを抱えていないほうの手で頬を撫でられる。
たったそれだけで私はメロメロになってしまうのだった。
文字通り腰から砕けて崩れ落ちてしまいそうになる。

「今年も手作りか?」

「うん、もちろん」

今年は寮の共同スペースにあるキッチンで作ったので、材料はともかく、道具が限られていたから大変だった。

そうまでして手作りにこだわるにはワケがある。

焦凍くんは原則としてバレンタインに貰うチョコは断らない。
ただし、貰うのは既製品だけと決めている。
見知らぬ相手からの手作りチョコは色々と怖いので。
これは将来ヒーローになった時のことを想定して、二人で話し合って決めたことだ。

焦凍くんが食べる手作りチョコは、私のだけ。

この特権は誰にも譲れない。

「しかし、高級品ばかりだね。これ、一箱8千円もするやつだよ」

「そうなのか?」

焦凍くんの場合、お腹に入ってしまえば同じと思っているふしがある。
食に困ったことがないお坊ちゃまらしいおおらかな発想だ。

「大事なのは気持ちだろ。俺にくれたやつらの気持ちは大事にしてぇ。だから、一つずつ味わって食う」

「うん、それでいいと思う。さすがヒーロー候補生」

「なんか、お前にそう言われるとくすぐってぇな」

珍しく焦凍くんが照れている。
これは貴重だ。
ああ、カメラが欲しい。

「焦凍くん、どれからいく?選り取りみどりだよ」

「食べ過ぎて食えなくなったら困るから、まずお前のからにする」

「そっか、ありがとう」

バレンタインは女の子にとっての一大行事。
こんな時、私を優先してくれるのは素直に嬉しい。

いつまでも焦凍くんの一番でいさせてね。

大好き、焦凍くん。


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