少し遠いけど、オープンしたばかりの猫カフェがあるというのでお休みの日に行ってみることにした。 公式サイトの情報では、今日デビューの新人子猫ちゃんがいるらしい。 写真を見ただけでメロメロになってしまったくらいだから、実際に会ったらもっと可愛いんだろうな。 そう楽しみにしながら猫カフェのドアを開けると、学校の担任がソファに座って、気のない様子で猫じゃらしで猫をじゃらしていた。 「相澤先生!?」 先生は私の顔を見るなり、しまったといった風な顔になったが、すぐ無表情に戻って「今日はオフだ」と猫をまたじゃらし始めた カウンターで手続きをしてから改めて店内に入る。 よく見れば、相澤先生の周りにはたくさんの猫が群がっていた。 膝の上には例の新人子猫ちゃんが乗っていて、ゴロゴロと喉を鳴らしている。 「先生、ずるい!」 「そう言われてもな。猫好みの匂いがするんだろう」 「なにそれずるい!」 私はおもむろにスマホを取り出すと、猫に囲まれている相澤先生を様々な角度から激写した。 「この写真を生徒達にバラまかれたくなかったら、今日一日私に付き合って下さい!」 「……はぁ」 先生の答えは深い溜め息だった。 「…おい、苗字」 「なんですか」 「これはなんだ」 「デートです」 相澤先生の膝の上に座らせてもらった私は、念願だったあの子猫ちゃんを抱っこしていた。 しかも、たくさんの猫に囲まれて。 ご機嫌な私と反対に、先生は元気がない。 さっきから溜め息ばかりついている。 現役の女子高生とデートしているというのにちょっと失礼じゃないだろうか。 それにしても、先生の猫力凄い。 黙っていても向こうから寄って来るなんて羨ましい限りだ。 「お前は気合いが入りすぎなんだよ」 「えっ?」 「見てろ」 先生が何気ない感じで近くにいた猫に指を差し出す。 「目は合わせない。姿勢はなるべく低くしろ」 先生の指をくんくん臭っていた猫は、少しすると、先生の手に身体をすり寄せた。 「わあ…凄い!」 「あと、声がデカい。もっと静かに」 「う…はい」 なるほど、先生が好かれる理由がわかった気がする。 見た目、無気力無関心だし、それで寄っていったら適度に相手をしてくれるって猫にとっては理想的なんだろうな。 ああ、でも、念願叶って子猫ちゃんをお膝に抱っこ出来ただけでも嬉しい。 「あと、デートならもっとデートらしくしろ」 「え」 「メシ食いに行くぞ。帰りはちゃんと送ってやる」 「先生…!」 「今日だけだからな」 「はい!」 その後、ファミレスで先生にご飯をおごってもらった。 そして、家まで送り届けてもらったのだった。 まるで本当のデートみたいに。 あの写メは私のスマホの中にまだあるが、誰にも見せていない。 秘密のデートのお礼に、私だけの宝物にしようと思う。 |