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いつものように、入院しているお母さんに面会に行く焦凍くんについて行ったら、焦凍くんはこれから雄英が寮制になることを報告していた。
お父さんやお姉さんには相澤先生から直接説明があったけれど、お母さんは知らないはずだからとわざわざ話しに来たようだ。
お母さん想いの焦凍くんらしい、優しい気遣いだと思った。

「これから忙しくなるみたいだし、無理して来なくてもいいのよ」

「俺がお母さんに会いに来たいんだ。週末には外出許可をもらってお見舞いに来るから」

「ありがとう、焦凍」

お母さんの嬉しそうな顔を見て、焦凍くんも心なしか優しい表情になっている。
普段クールだけど、お母さんの前では素の焦凍くんが出るから、見ていて私も嬉しい。

「なまえちゃんもまたいつでも来てちょうだいね」

「はい、焦凍くんと一緒にお見舞いに来ますね」

「寮制になっても、なまえちゃんが一緒なら安心だわ」

「俺、そんなに信用ないか?」

「そういうわけじゃないのよ」

「そうそう、焦凍くんは頼りになるよ」

私とお母さんのフォローで、焦凍くんは納得してくれたようだ。
実のところ、私もお母さんと同じ心配をしていたので気持ちはよくわかる。
でも、いまの焦凍くんなら大丈夫だろう。
緑谷くんと飯田くんもいるし。

それよりも別の問題が。
病院からの帰りに、さりげなく口にしてみた。

「焦凍くんが百ちゃんとお話してると焼きもち妬いちゃうな」

「俺もだ。心操って言ったか。お前があいつと話してると苛々する」

「人使くんは友達だよ」

「なんで名前で呼んでんだよ」

「ふふ、焦凍くんが焼きもち妬くなんて子供の時以来だね」

焦凍くんがお父さんに特訓を受けていた時に幼稚園に行こうとした私に「他のお友達と遊ばないで」って泣いちゃったことがあったのだ。
焦凍くんもその時のことを思い出したのか、不機嫌そうな顔になった。
でも、それが照れ隠しだと私は知っている。

「ガキの時の話だろ。忘れてくれ」

「あの頃の焦凍くんを知っているのは私だけだもんね」

いわゆる幼なじみの特権というやつだ。
私だけが知っている焦凍くんがいるという、優越感。
百ちゃんに感じていた劣等感とか嫉妬とか、胸の中でモヤモヤしていたものが薄れていくのを感じる。

A組のみんなと焦凍くんの間には特別な絆があるけれど、私と焦凍くんの間にも今まで築き上げてきた大切な想い出と絆があるのだ。

「ちょっと難しく考え過ぎてたかも」

「そうか?」

「焦凍くんにたくさんお友達が出来て嬉しい」

「俺はお前がクラスの奴らと楽しそうにしてるとモヤモヤする」

「みんなは友達。焦凍くんは特別だよ」

「ああ、それならわかる。俺にとってもお前は特別だ」

神様、ここまで来たらもう少しだけ高望みをしてもいいですか。

「焦凍くん、約束覚えてる?」

「当然だろ」

「卒業したら焦凍くんのお嫁さんにしてね」

「ああ、俺と結婚してくれ」

いまなら幸せ過ぎて空も飛べそうだ。
このまま死んでしまっても構わないとさえ思う。

「幸せ過ぎて死んじゃいそう」

「死なれたら困る。結婚しても出来るだけ長生きしてくれ。あと、心操のこと名前で呼ぶのはやめてくれねぇか」

「そここだわるね、焦凍くん」

「お前が名前を呼ぶ男は俺だけでいいだろ」

私の未来の旦那様は意外と独占欲が強いみたいだ。


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