「へい、お待ち!」 「ありがとうございます。いただきまーす」 熱々のラーメンを吹き冷ましてから啜ると、両隣からも同じくラーメンを食べる音が聞こえてきた。 左側にいる轟くんと、右側にいる相澤先生だ。 雄英を卒業して数年が経ち、私もやっとプロヒーローの端くれとしてやっていけるようになっていた。 今日の仕事は偶然にも相澤先生と轟くんと一緒になり、終わった後で、せっかくだからこれから食事でもという話になったところまではわかる。 でも、さすがにあのイレイザー・ヘッドとショートからデートに誘われたなんて自惚れることはなかった。 二人に同時に誘われたから、じゃあ三人で一緒にと言ったら、二人とも微妙な表情になりながらもついてきてくれたのだけど、何かまずかっただろうか。 「やっぱりお蕎麦のほうが良かった?」 「いや、構わねえ」 「先生はどうですか?」 「悪くはねえが、食事に誘って、まさかラーメン屋を希望されるとは思わなかった」 「ああ、こういう時は普通フレンチとかイタリアンを選ぶもんじゃねえのか?」 困惑しているような相澤先生の言葉に轟くんも同意を示した。 「このメンバーで気取っても仕方ないかなって」 「それもそうだな」 轟くんは納得してくれたが、相澤先生はまだ微妙な顔つきのままだ。 「俺はお前をデートに誘ったつもりなんだがな、苗字」 「やだ、相澤先生ってば、冗談上手くなりましたね!」 「もうお前の先生じゃない。卒業して何年経ってると思ってるんだ」 「先生はいつまでも私の先生ですよ」 「なあ、苗字。俺もデートに誘ったつもりなんだが」 「轟くんも冗談上手くなったね!」 「冗談じゃねえ。本気だ」 「だって、そんなこと急に言われても信じられないよ」 「お前な…」 「ダメですよ。こいつ、俺がいくらアピールしてもずっとこんな感じなんで」 「じゃあ、諦めるのか?」 「まさか。だったら今日もメシに誘ったりしませんよ」 「悪いが、俺も争奪戦から降りる気はない。こいつが卒業してようやく合法的に手が出せるようになったんだ。そう易々と他の男に譲れるか」 「俺も譲るつもりはありません。これからはライバルということで」 「ああ、お互いヒーローらしく正々堂々とな」 「二人とも…聞こえてるよ…」 「聞かせてるんだ。合理的だろ」 「こうでもしないと、意識してくれねえからな、お前」 私は何も答えられずにラーメンを食べることに集中した。 だからと言って、この状況から逃げられるわけではなかったのだけれど。 「食べ終わるまでにどっちと付き合うか決めろよ」 「俺だよな、苗字。お前がずっと好きだった」 「俺にしておけ、苗字。幸せにしてやる」 私を挟んで言い争いを始めた二人に、私はやっぱりなんと声をかけて良いものかわからず、ただひたすらラーメンを啜るしかなかった。 |