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左右色の違う瞳でじっと見据えられて、戸惑う。
お弁当に入っていた玉子焼きが気に入らなかったのかな。
ニンジンを花柄にして混ぜたのが可愛すぎてダメだったとか。

「どうしたの、焦凍くん」

「何かあったか?」

質問を質問で返されてしまった。
相変わらずマイペースだなあ。
その辺はもう幼なじみなので慣れたものだけど。

「別に何もないよ?」

「でも、前と違う」

前と違う?
そう言われても私に心当たりはない。
変わったというなら彼のほうだ。

「そういう焦凍くんこそ、変わったよね」

「そうか?」

「うん、体育祭で緑谷くんと戦ってから、何かふっきれたみたいに見える。『ヒーロー殺し』の一件の後は緑谷くんと飯田くんと仲良くなったみたいだし」

「そうか…そうだな」

ふっと小さく笑った焦凍くんは、ほんの少しだけ照れくさそうに見えた。

「お母さんともお話出来てるみたいで本当に良かった」

「今度の日曜なまえも一緒に見舞いに行くか?」

「ううん、私はいいよ。せっかくの親子の団欒を邪魔したら悪いから」

「やっぱりおかしい。前のお前なら素直に一緒に行くって言ったはずだ」

「もう小さい子供じゃないんだから、遠慮を覚えたんだよ」

私は視線を逸らして中庭の緑に目を向けた。

「もう焦凍くんにまとわりついてばかりいた頃とは違うんだよ」

焦凍くんとは母親同士が友人で、それがきっかけで始まった仲だが、幼い私の一目惚れだった。
何をやらせても優秀な彼に、目をハートにしてくっついていたあの頃とはもう違う。
そろそろ報われないこの片想いにもケリをつけなければ。

「俺から離れていこうとしてるのか」

「そうじゃないよ。適切な距離を置こうっていうだけ」

「なんだそれ。俺達の間に距離なんか必要ねぇだろ」

「これからは必要でしょう。ヒーロー候補生と、そうじゃない私とじゃ、釣り合わないもの」

「俺の相棒になるんじゃなかったのか」

「私じゃ無理だってわかったの。焦凍くんにはきっと、八百万さんみたいな女の子がお似合いなんだって」

「なんでそこで八百万が出て来るんだ?」

「あーもー…この話はおしまい!」

なんだか凄く惨めな気分になって強引に会話を終わらせた。
自分で言っておいてなんだけど、八百万さんの名前を出したことで予想以上にダメージを受けてしまっている。
ヤバい。泣きそうだ。

「もう週に一度一緒にお弁当食べるのも止めにしようね」

「待てよ。なんでそうなる」

焦凍くんが私の手首を掴んだ。

「俺が何かしたなら謝る。だから、許してくれ」

「焦凍くんは悪くないよ」

「でもお前泣きそうになってるじゃねぇか」

「泣かないよ!」

「そうか、わかった」

焦凍くんは何を思ったのか、突然掴んでいた私の腕を引っ張ると、私の身体を包み込むようにして抱き締めた。

「しょ…焦凍くん!」

「悪かった。お前のこと不安にさせてたんだな」

背中を優しく撫でられて言葉を失う。
逃げ出そうにも逃げられない。
あまりにも心地よくて。

「ずっと俺の側にいてくれ」

「焦凍くん…」

「お前じゃなきゃダメだ」

もういい。
ここまで言って貰えれば充分だ。
例え焦凍くんの私に対する気持ちが恋愛感情でなかったとしても。

「…ごめんね」

「謝るな。俺が悪い」

「でも、」

「もうあんなこと言うな」

「…うん、ごめん」

「俺から離れるなよ」

「焦凍くんがそう言うなら」

「よし」

ぽんぽんと背中を叩いてから身体を離される。
でも、まだ心配なのか手を握られていた。
その手を温めるようにもう片方の手で包み込む。

「ずっと焦凍くんの側にいる」

「そうか」

焦凍くんが微笑む。

「座敷牢を使わずに済んで良かった」

「えっ」

「ん?」


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