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「大将居眠りか?体冷やすなよ」

肩に掛けられた毛布の柔らかい感触に、はっとして目が覚める。
次の遠征部隊の編成について考えていたのだが、ついうとうとしてしまったらしい。
眠りが浅い内で良かった。
早春とは言え、まだまだ空気は冷たい。
こんな中で居眠りしたら風邪をひいてしまうだろう。

「ごめんね、ありがとう薬研」

「礼には及ばないさ。それより、随分疲れてるみたいだな」

「そう、なのかな?自覚はあんまりないんだけど」

「身体を起こす時に痛そうな顔しただろ。肩、痛いんじゃないのか?」

鋭い。
実はここ暫く、確かにひどい肩こりに悩まされていたのだ。

「そっち向いて座ってな。少し揉んでやるよ」

「え、いいの?」

「なに、大将の面倒を見るのも仕事のうちさ」

「ありがとうね、薬研」

「いいってことよ。さあ……治療の時間だ」

いつの間に用意したのか、白衣を羽織って薬研が笑う。
今の言い方、かっこよかった。
ちょっときゅんとしてしまった。
いけない、いけない、と気を引き締める。

すると、ぐ、と首筋に指がきた。
凝り固まった首筋から肩にかけてを、リンパを流すようにぐいぐいと押していく。

「凝ってるなあ。こんなになるまで放っておおいたら、かなり辛かったんじゃないか?」

「うん、かなり」

いたた、となりつつもその直後にやってくる気持ち良さに思わずうっとりとなる。

「あ……そこ、気持ちいい」

「ん?ここか?」

「うん、そこそこ…んん……薬研、気持ちいいよお…」

「よしよし、そのまま力抜いてな。もっとよくしてやる」

「ん…」

緊張で固くなっていた身体から力が抜けていく。
そうなったのを見計らって、薬研は指押しから揉み技に変えた。
ちょうどいい力加減で首筋から肩を揉んでくれる。

「はあ……いい気持ち」

「そいつは良かった。俺で良ければいつでも相手になるぜ」

「うん、ありがとう薬研」

その時、障子の隙間から覗いている誰かと目が合った。
薄く開いた隙間から、見開かれた目がじぃっ…とこちらを見つめている。

「ひえっ!?」

「申し訳ありません、主。俺です」

「は、長谷部?」

障子が、すう…、と引き開けられ、廊下に座した長谷部の姿が現れた。

「ど…どうしたの、何かあった?」

「いえ……何をされているのかと気になったもので」

「薬研に肩を揉んでもらってたんだよ」

「肩を……ああ、なるほど、そうでしたか。俺はてっきり」

「てっきり?」

「いえ、そういうことでしたら、俺にお任せ下さい」

「ありがとう、でも、今は薬研にやってもらってるから」

「では、俺はおみ足を」

「えっ?ちょ、ちょっと…!」

長谷部にやや強引に足を取られて、ぺたんと尻餅をつく。
座布団の上に足を伸ばして座った格好だ。
その足を、長谷部がやんわりと揉んでいく。

「長谷部、長谷部、いいよ、そんなこと…」

「薬研には任せられて、俺ではお役に立てないと?」

「そうじゃないよ、そうじゃないけど」

「ああ、足先が冷たくなっておられる。今俺が温めて差し上げます」

長谷部はなまえの足の指先を手の平で包み込むようにして、やわやわと揉んだ。
そして、指一本一本を丁寧に擦りあげる。
かと思ったら、恭しく持ち上げて、口元に運んでいった。

「え、え、長谷部!?」

焦って止めようとする暇もなく、親指が長谷部の口の中へ。
ちゅく、と吸われて、ゾクゾクッと背筋に寒気に似た何かが走った。
その間にも、長谷部は、人差し指、中指、と順番に口に含んでいく。

「あ……やめ、んんっ」

「気持ち良いのですね、主」

指の股をねろりと舐めあげながら、上目遣いになまえを見上げて長谷部が囁く。
濡れた皮膚に吐息がかかって、それでまたゾクゾクした。

「もう温まった!もう温まったから!」

「そうですか?」

長谷部がすんなりと口から足を離したのでほっとした。

危なかった…。
確かに気持ち良かったけれど、ソレはちょっと違う気持ち良さである。

ポットのお湯で手ぬぐいを濡らして絞り、長谷部が丁寧に足を清めてくれる。
それもまた気持ち良かった。

「いいのか?大将。途中でやめちまって」

薬研がからかってくる。

もう、この刀達は…。
だが、満足そうな長谷部の顔を見ると何も言えなかった。

しかし、危なかった。
気をつけよう。


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