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燭台切光忠の朝は早い。
誰よりも早く起きてきっちりと身支度を整え、それから朝餉の準備にとりかかる。
これは自ら志願して行っていることだ。

同様に内番以外でも積極的に畑仕事に励んでいる。
主の身体に取り込む食料を己の手で作り出す──そう考えると、身体が震えるような歓喜の念が湧き上がってくる。
毎日、自分が作る料理を美味しそうに食べるなまえを見るだけで心が満たされた。

そして、刀剣男士である以上、戦でも手は抜かない。
せっかくの晴れ舞台だし、格好よくいきたいよね、と彼は考える。
だから、例え演練や手合わせであろうとも全力で勝ちに行く。
みっともない姿は見せられない。

常に格好よくありたいものだと燭台切は思う。
特に、想いを捧げる女性の前では。


「なまえちゃん起きて。朝だよ」

まだ布団の中ですやすやと眠るなまえに優しく声をかける。
軽く揺り起こすと、「ううん…」とむずがりながらも目を開けた。

「おはよう…光忠」

「おはよう、なまえちゃん」

挨拶をかわすその柔らかそうな唇に吸い付きたいと思いつつ、優しい理解者の顔は崩さない。

「ほらほら、立って。着物着付けてあげるから。今日はどれがいいかな?昨日は青だったから今日は桃色にしようか」

春らしくていいよね、と尋ねると、肯定の返事がかえってきたのですぐに用意する。
まだぼんやりしているなまえが、しゅるりと密やかな音を立てて寝間着代わりの浴衣を脱ぐのを見て、ああ、と喉の渇きを覚えた。
この渇きは水では癒されないと分かっていながら態度には何も出さずに、洗面器にお湯を入れて、手ぬぐいと一緒に渡す。
顔を洗って無防備そのものな襦袢姿になった彼女に手早く着物を着付けてやる。

「みんなは?」

「そろそろ起き出してくる頃だね」

「んー…」

「まだ眠い?」

「うん、すごく」

「早くしないと長谷部くんが来るよ。その前に身支度を整えておきたいだろう?」

「…うん」

くすりと笑った燭台切は、なまえの髪を柘植の櫛でとかしてやった。
愛おしむように丁寧にくしけずる。

「お化粧が終わったら広間においで。朝餉にしよう」

「いつもありがとう、光忠」

「いいんだよ。僕が好きでやっていることなんだから」

「このままだと、光忠がいないと何も出来ない人間になりそう」

そうなってくれたらどんなにいいか。
そんな本心を隠して朗らかに笑う。

「それじゃあ、また後で」

──時々、この本丸に僕と君だけしかいない夢を見るよ。

心の中で呟いて、燭台切は朝餉の支度をするためになまえの部屋を出た。

今日は彼女の好きな、ほうれん草の入っただし巻き玉子と、茄子の味噌汁だ。
もちろん、どちらも燭台切が彼女のために育てたものだった。

彼女の血肉は彼の作り出したもので出来ている。
そう考えるとたまらない。
ゾクゾクと背筋を走るものは快感に似ていた。

「おはよう、長谷部くん」

台所に戻る途中、なまえの部屋へ向かう長谷部とすれ違った。

「主は」

「もう起きてるよ」

一瞬、先を越されたとばかりに悔しそうな顔をした長谷部に笑顔を向けてから台所へ。

今日も良い一日になりそうだ。


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