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夕餉の後、軽く食休みをしたらお風呂タイムだ。
ゆっくり湯船に浸かりながら、全身を伸ばすようにして寛ぐ。
もしかすると一日の内で一番リラックス出来る時間かもしれない。

「今日の食事も美味しかったなあ」

もう燭台切は料理人としてやっていけるんじゃないかと思うくらいだ。
彼がいてくれて本当に良かった。

「よいしょ、と」

充分あたたまったところで湯船を出て、まずは頭から洗い始める。
湯船に浸かる前に全身を軽くシャワーで洗い流していたが、これからが本番だ。
本丸に来てから伸ばし始めた髪は大分長くなっていた。
それをシャンプー、トリートメントの順番で洗っていく。
シャワーで泡を流し終えたら、次は身体だ。
と思ったその時、

「大将、いいか?」

浴室の外から声をかけられた。

「えっ!?薬研!?」

「入るぜ」

「ちょ、ちょっと待って…!」

止める間もあったものではない。
引き戸を開けて入ってきた薬研は、慌てるなまえに構わず近づいてくる。
ちらっと見えた彼は腰にタオルを巻いただけの姿だった。
かあっと顔が熱くなる。

「背中を流してやろうと思ってな」

「と、突然すぎ!」

「まあまあ、そのまま後ろ向いてな」

薬研に背中を向けている上、タオルで前を隠しているから彼には見えないだろうが、それでもやはり恥ずかしい。

「綺麗な身体だ…見とれちまうぜ」

薬研の手が背中をなぞるように、つつ、と触れてくる。

「薬研、くすぐったい」

「くすぐったいだけか?もっとよくしてやってもいいんだぜ」

「こ、こら!」

「はは、これ以上はまたの機会にとっておくか」

湯で濡らしたタオルを石鹸で泡立てて、薬研はそれでなまえの背中を擦り始めた。
ごし、ごし、ごし、と丁度良い力加減で背中を擦られて、首筋や脇腹、腰の辺りも優しく撫でるように洗われる。
これがまたびっくりするほど気持ちがいい。

「んん…」

「気持ちいいか?大将」

「うん、凄く」

「そうか、なら、前も」

「ダメ」

「ちっ」

「舌打ちしてもダメ」

「なあ、いいだろ、たーいしょ?」

「だ…だめだってば…」

「優しくする。だから、頼む。俺に身を委ねてくれ」

「薬研……」

恐る恐る振り返る。
そこには真剣な顔つきの薬研が居た。
彼の手がなまえの首筋にかかり、優しく引き寄せられる。

唇に吐息がかかり、思わず瞳を閉じた瞬間、物凄い勢いで引き戸が引き開けられた。

「何をしている!薬研!」

その声にはっとして薬研の胸を押しのけるのと、彼の首根っこが掴まれるのはほぼ同時だった。
薬研を取り押さえたのは、彼の兄の一期一振だ。
湯気がたちこめる中に仁王立ちしているが、相変わらず麗しい。

「弟がご無礼を致しました」

「う、うん、ありがとう、一期」

「これの仕置きはお任せ下さい」

後ろから薬研の首根っこを掴んだ一期一振は弟を見下ろしながらそう言うと、そのまま薬研を引きずって浴室から出ていった。

「そりゃないぜ、いち兄…」

「抜け駆けはなしだと言ったはずだぞ、薬研」

引き戸の向こうから怒気を滲ませた一期の声が聞こえてくる。

突然の事態にぽかんとしていたが、やがて気を取り直すと、身体に纏った泡を洗い流し始めた。

しかし、危なかった。
気をつけよう。


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