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お風呂上がり。
洗ってさっぱりした代わりに油分もなくなってしまった顔に、化粧水をぺちぺちと優しく叩き込む。
続いて、乳液もまんべんなく塗り込んでいく。

おかしな話だが、こうしてスキンケアをしていると、いつも高校時代美術の授業で油絵を描いていた時のことを思い出す。
キャンバス代わりの顔に化粧水やら乳液やらを塗り重ねていくからだろうか。

パソコンが立ち上がったのを確認して、ファイルをクリックする。
そこには政府から送られてきた戦績が一目で分かる一覧になっていた。
最初は何もかも手探りでどうなることかと思ったが、今のところ順調にやってきていると思う。
大きな怪我をした男士もいないし、皆、着々と力をつけてきていた。
心配していた検非違使も難なく退けたというし、頼もしい限りだ。

「主ー、入ってもいい?」

「どうぞ」

障子を開けて入ってきたのは、加州清光。
初期刀としてなまえが審神者となった初めからずっと共にいる彼は、時折こうしてなまえの部屋を訪れる。
その彼の手には二つの硝子の器があった。
スプーンも二つ。

「燭台切がデザート持っていけってさ。ババロア」

「わあ、ありがとう!」

「食べ終わったら、爪、色塗ってくんない?」

「うん、いいよ」

「やった!早く食べよ」

二人で座ってババロアを食べ始める。
お風呂上がりにデザートなんて、燭台切は本当に細やかな気遣いの出来る男だ。
ババロアも甘くて美味しい。

「清光はお風呂入った?」

「もうとっくに。主は今お風呂上がり?」

「そう。ついでに戦績表見てたところ」

「へえ。で?今の実績は、っと」

「あ、こら」

スプーンを咥えた加州がパソコンの画面を覗き込む。

「ふーん…まあ、順調なんじゃない?」

「だと思うよ」

「ねえ、これ見てわかったろ?誰が一番かって」

そう言って得意げな顔をしてみせる。
確かに彼は頼りになる。
初めこそ扱いにくさを感じたものの、勝手が分かれば、それまでの苦労が嘘のように使いこなせた。
彼の本領はその意外性にあると言ってもいい。
偵察は苦手と言いながら、実際任せてみたら腕はピカ一だったりするところとか。

「うん、頼りにしてる」

「本当?俺のこと愛してる?」

「うんうん、愛してる」

「マニキュアは?」と問えば、ぱっと顔を輝かせて、中身が赤い小さなボトルを差し出してきた。

「一番お気に入りのやつ持って来たんだ。可愛くしてね」

「はいはい」

加州の本体は、深みのある艶やかな赤い鞘に、黒が映える装飾と、それはそれは美しい刀である。
刀剣男士として顕現した彼が自分の外見をやたら気にしているのはこのためだろうか。

「主、明日の俺の当番は?」

「一応、手合せにしようかと思ってるけど」

「いいねいいね、訓練大好き!」

「あっ、今動かないで。もうちょっとだから」

「主、今のエロかった」

「ええっ?」

「俺、川の下の子だからさ。意外にそういうのも詳しいよ?」

「何言ってるの…」

「あ、本気にしてない。ひどいなあ、もう」

「ひどくない。はい、出来たよ」

「俺、可愛くなった?」

「清光はいつも凄く可愛いよ」

「えへへ、ありがとー」

マニキュアが乾くまでの間、少し話をした。
お洒落の話や、大和守安定と喧嘩をしたことだとか。
これはいつものことなので心配はしていない。
彼らは正反対に見えて似た者同士の喧嘩仲間なのだ。
一々気を揉んでも仕方がない。

「主」

「なあに?」

「ありがとう。大好きだよ」

首を伸ばすように身を乗り出してきた加州が、頬に、ちゅっ、と口付ける。
妖艶とも呼べる微笑を浮かべて。

「次は唇がいい?」

「もう!清光!」

「あはは、おやすみ!」

さっと立ち上がった加州が、すぱんと障子を開く。
そのままぱたぱたと走り去っていく軽やかな足音を聞きながら、熱くなった頬を手で押さえた。
まったく、彼には振り回されてばかりだ。

後には、ババロアが入っていた器とスプーンが二つ残されていた。


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