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審神者に選ばれる条件は完全に秘密にされているため、多くの者は何故自分が選ばれたのかわからないまま就任することになる。

色々な噂はあるが、条件さえ満たしていれば老若男女は問わないらしい。
実際、演練の時などに他の本丸の審神者をよく見てみれば、老いも若きも男も女もいる。
これも噂によると、ヒト以外の審神者もいるとかいないとか。
残念ながらそちらにはまだお目にかかったことがない。

「合戦の演習か。二度と負けたくないんだが」

「当然だ。主の御前で敗北など許されない」

「訓練だからって手を抜くのは格好悪いだけだからね」

一期一振、へし切長谷部、燭台切光忠が、準備をしながら話している。

今回なまえが選んだ陣形は、横隊陣。
加州清光が探って来た情報によると、相手方は方陣で来るらしいので。

審神者であるなまえに出来るのは、事前にある程度戦況を予測しつつ陣形を決め、采配を振ることだけだ。
後は各自の判断に任せるしかない。

「みんな、頑張ってね!」

「お任せ下さい。必ずや、勝利を主に」

隊長を任せた長谷部が恭しく答える。
頼もしいかぎりだ。

見通しの良い丘の上に審神者のために用意された席に案内されると、すぐに長谷部が率いる我らが本丸の部隊がやって来た。
時を同じくして、相手方の部隊も姿を現す。
その陣形は──方陣。

さすが、清光!

舌打ちする演練相手の審神者の横で、ガッツポーズをとる勢いで喜びつつ、心の中で加州を褒めまくった。
帰ったら新しいマニキュアを買ってあげよう。

こうして始まった演練は、こちらの圧倒的勝利で幕を閉じた。

「お疲れさま!おめでとう!」

まずは隊長を務めてくれた長谷部のもとへ行き、真っ先に労いの言葉をかける。
刀をおさめた長谷部は満足げな様子で笑みを覗かせた。

「主命を果たしたまでのことです」

「ありがとう、長谷部!」

「決まった…かな?」

言葉とは裏腹に、余裕の態度の燭台切は服装の乱れすらない。
まさしく圧勝だったのだろう。

「最高に格好よかったよ、光忠!」

汗を腕で拭おうとする一期にタオルを差し出す。

「一期もありがとう。よく頑張ってくれたね」

「お誉め頂き、ありがとうございます」

タオルを受け取り、爽やかな笑顔で汗を拭く一期はどこまでも気品溢れる王子様だった。

「ね、主。あれ」

加州を撫でくりまわしていると、こそっと耳打ちされる。
彼が目線で示した先では、演練相手だった審神者が、彼女の刀剣男士である歌仙の胸に額を当てるようにしてうつむき、声を押し殺して泣いていた。
途端に罪悪感が胸にこみあげてくる。

「なんかさぁ」

「うん…だね」

加州と頷きあっていると、何をどう思ったのか、燭台切が目の前にやって来て両腕を広げてみせた。

「いいよ、おいで」

「えっ」

「主!それでしたら、俺が!」

燭台切を押し退けるようにして進み出た長谷部が同じく両腕を広げる。

「私でよろしければ、この胸をお使い下さい」

「一期まで…!」

さあ、どうぞ、と優雅に広げられた両腕を前に、なまえは軽く目眩を覚えた。

「だって、羨ましかったんだろう?」

「羨ましかったのでは?」

「羨ましかったのでしょう?」

三者三様に、しかし、内容は同じ言葉を口にする彼らに、なまえは首を横に振って溜め息をついた。

「全然違う…」

「またまた、そんなやせ我慢しなくてもいいよ。格好よく決めてあげるから」

「主、俺ではお力になれませんか。俺は主の全てを受け止める自信がありますよ」

「貴女は恥ずかしがり屋ですな。そこが美点でもありますが、こういう時には素直に甘えて下されば良いのです」

誤解はなかなかとけなかった。
いや、わかっていてやっていたのだと思う。

「羨ましかったのは、主じゃなくて皆のほうじゃないの?」

加州がぼそっと呟くと、三人ともぴくりと反応を示した。
やっぱりか。

「じゃあ、順番に一人ずつ…」

「それなら、俺が」

「それなら、僕が」

「それなら、私が」

「それなら、俺も」

「清光まで!」

その後、みんなでぎゅっぎゅと抱き締めあった。

既に泣き止んでいた相手方の審神者に妙なものを見る目で見られたのは仕方のないことだった。

我が本丸の刀剣男士は愛が溢れて有り余っている。
時々、持て余してしまうほどに。


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