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今、この本丸の刀剣男士達は、紅茶派と珈琲派と日本茶派に分かれている。

「俺はどれでも。主のお好きなものに合わせますよ」

長谷部はそう言うが、やはり好みというものがあるだろう。

鍛刀などで刀剣男士が増えた分、畑仕事は楽になり、料理をする者のレパートリーも増えてきたし、顕現した初めこそ食事をとるという行為に戸惑っていた者も、今では三食おやつ付きの生活にすっかり慣れてきている。
それに伴い、食べ物の好みも出てきたというわけだ。
日頃おもに台所を任せている歌仙兼定や燭台切光忠などは、料理のし甲斐があると言って張り切っている。

私はと言うと、その時の気分や食べる物によって飲み物を決める派だ。
洋食の後や、洋菓子と一緒に飲むなら紅茶がいいし、夜遅くまで書類仕事をしている時は珈琲がいい。
和食や和菓子の時には当然日本茶が一番だ。
みんなちがって、みんないい。

「その時々の気分でとっかえひっかえなんだねぇ。──飲み物の話だよ?」

にっかり青江がドキッとするようなことを言う。

「別に男に対してもそうだなんて思ってないから、安心するといい」

「思ってるでしょ!絶対!」

「いやいや、まさか」

意味深な含み笑いに思わず顔がひきつる。

「モテる身はつらいね。でも、そろそろはっきりさせないと酷なんじゃないかな」

「う……」

訪れた時と同様に、彼はふらりと立ち去ってしまった。

彼が言いたいことはわかっている。
現在、審神者である私は男所帯に女一人ということもあり、複数の刀剣男士達から好意を寄せられているのだった。
審神者と刀剣男士には余人にはわからない絆のようなものがある。
特に鍛刀によって顕現した刀剣男士にその傾向は顕著に見られた。
刷り込みと言ってもいいそれが、共に生活する内に恋心に変わっていき……というのは、どこの本丸でも割りとよくあることらしい。

さりげなくアプローチされている分にはまだこちらもさりげなくかわせるが、最近では露骨に好意をぶつけてくるようになってきている。
こうなると、嫉妬したりされたりと、刀剣男士達の間に微妙な軋轢が生まれてしまい、よろしくない。

私は決断を迫られていた。

いつも穏やかで優しく、包容力があり、それでいて一歩間違えると底知れないヤンデレ素質を発揮しそうな感じを受ける彼ら。

悩んだ末に、私が選んだのは


やっぱり彼だった


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