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審神者に任命されてこの本丸に来てからは、普段着物を着るようにしている。
着物姿の刀剣男士が多いため、彼らの生活様式に合わせるためだ。
祖母から引き継いだ着物ばかりだが、今のところそれで充分間に合っている。

「蜂須賀、万屋に行くんだけど一緒に行ってくれる?」

「ああ、お供しようか」

こころよく引き受けてくれた蜂須賀虎徹は今日も優雅だ。
内番用の着物姿が目に眩しい。
着替えるから待っていてくれ、と言われたので縁側に座って待つことにした。

私からしてみれば、内番用に着ている着物も充分雅なものに見えるのだが、彼からするとあれはあくまでも雑用をこなすための最低限のものでしかないらしい。
万屋へのお供を頼む時は必ず外出着に着替えているから、彼なりの美学があるのだろう。

「すまない、待たせたね」

「ううん、平気だよ」

きらびやかな着物に、羽織。長い髪は頭頂部で飾り紐で結んで。
着物の柄や種類には詳しくないのだが、明らかに内番着よりもランクアップしていることはわかる身なりで蜂須賀は現れた。

「では、行こうか」

万屋への道を並んで歩く。
さりげなくエスコートしてくれるのが嬉しい。
蜂須賀といると、自分が良家のお嬢様になったような気分になるから不思議だ。
こんな気品のある美青年に敬意を払われていることがそういう気分にさせるのだろうと思う。

「その着物」

「ん?」

「可愛らしいが、華やかさが足りない。君くらいの年頃の女性ならば、もっと鮮やかな色合いや模様のものが似合うはずだ」

「そういうものなの?」

「ああ」

今日も祖母から譲り受けた矢絣模様の着物を着ていたのだが、蜂須賀のお眼鏡にはかなわなかったらしい。

「私の着物は全部祖母のお古だからなあ」

「自分で着物を選んだことは?」

「ないよ。審神者になるまではいつも洋服だったし、着物なんて着る機会は滅多になかったから。本丸に来る時に慌ててお古を貰ってきたの」

「そうだったのか」

なるほど、と蜂須賀が頷いたところでちょうど万屋に着いた。

「とりあえず、買い物を済ませてしまおう」

「うん、そうだね」

二人して万屋の暖簾をくぐる。
いらっしゃいませ、と声が迎えてくれた。

「今日は何を買うんだい?」

「そうだなあ、仙人団子と……資材のほうは詰め合わせにしようかな」

用事はすぐに済んだ。
詰め合わせのほうは直接本丸に届けてくれるというので、手荷物は仙人団子だけだ。
わざわざついてきて貰ったのに、なんだか申し訳ない。
そう言うと、

「君を一人にするわけにはいかないからね」

と蜂須賀は真面目な顔つきで答えた。

「いつ遡行軍の手の者が襲ってくるかわからない。護衛は必要だ」

「うん…ありがとう」

「ところで、先ほどの話だが」

蜂須賀は幾分表情をやわらげて言った。

「着物のことだよ。君さえ良ければ、俺に見立てさせてくれないか」

「えっ、いいの?」

「もちろんだ。今度外に出る時には是非俺も連れて行ってくれ。君に似合う着物を選んであげよう」

「本当?嬉しい!ありがとう」

「そんなに喜んで貰えると俺も嬉しいよ。君を美しく着飾る権利を与えて貰えて光栄だ」

「美しく…なれるかなあ?」

「なれるとも。君はとても可愛らしい女性なのだから」

俺に任せてくれ、と言われて、大きく頷いた。
蜂須賀の審美眼を信じよう。

美人になれるかどうかはともかく、今の自分に出来るだけの美は手に入れたい。

立ち居振舞いに品があり美しく、真作であることに誇りを持っている、蜂須賀虎徹。

彼の隣に胸を張って並び立てるように。


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