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全ての始まりは西暦2205年。

『歴史修正主義者』と呼ばれる者達による過去への攻撃を阻止するため、時の政府によって選出された『審神者(さにわ)』と呼ばれる者達がいた。

「眠っている物の想い、心を目覚めさせ、自ら戦う力を与え、振るわせる」能力を持つ審神者は、刀剣より生み出した付喪神、『刀剣男士(とうけんだんし)』を遠い過去へ送り込み、歴史改変を目論む遡行軍と戦いを繰り広げることとなったのだ。

刀剣男士とは、名だたる名刀が男性の姿になった付喪神の総称である。
主である審神者の命を受けて過去へと送り出され、最大六振りで編成された『白刃隊』として遡行軍と戦闘を行う。

審神者と刀剣男士は普段は本丸と呼ばれる場所で生活しており、そこから出陣していく。
昔の城にあった本丸御殿のようなものを想像するとわかりやすい。
彼らはそこで、馬の世話をしたり、畑を耕したり、手合わせを行ったりして日々戦いに備えている。


「隊長か。あいわかった」

この度のいくさで隊長を任されたのは三日月宗近だった。
天下五剣の一つにして、一番美しいとも言われる彼は、付喪神として顕現した今は、あらゆる能力が高い非常に使い勝手の良い刀剣男士として重宝されている。

「はいはい、どうどう」

厩舎から今剣が馬を引いて来た。
それをどこか小馬鹿にした目で見ているのは小狐丸だ。
今剣に対してではなく、昨日の内番で馬に無視されたことを根に持っているのだろう。
しかし、馬は馬。いくさにおいては大事な脚となる。

「これで今少し活躍できるでしょう」

「うん、仲良くしてね」

「ぬしさまのためならば」

「御幣以外を持つことになろうとはね」と苦笑いしているのは石切丸。
確かに加持祈祷をしているほうが似合っているのだが、今回は三日月のサポート役として出陣してもらうことになる。

「どぉーれ!いっちょ狩りに出かけるとしよう!」

石切丸とは対照的に戦いたくてうずうずしている様子なのは岩融だ。
豪放磊落な彼は進んでいくさに出てくれるし、実に頼りになる。

「みんな気をつけてね。なるべく怪我をしないように」

なまえがそう言うと、三日月達はそれぞれ懐にしまってあった御守りを出して掲げてみせた。
出陣の準備の際になまえが彼らに渡した御守りである。

一度本丸を出て過去へとさかのぼれば、審神者であるなまえに出来ることは殆ど無いと言って良い。
せめて戦いが有利になるように、事前に装備を整えさせたり、陣形を決めて作戦を指示したり、願いをこめた御守りを託すことぐらいしか出来ない。

「案ずるな。必ず良い結果を持ち帰ろう」

「てきなんて、ぼくがちぎってはなげ、ちぎってはなげて、ぜんめつさせてきますよ!」

「ぬしさまに最良の結果を。帰ってきましたら、また毛並みを撫でて下さいませ」

「何せ、神社ぐらしが長いものでね。いくさよりは神事のほうが得意になってしまったよ。だが、刀としての本分は忘れていない。期待して待っていてくれ」

「見たこともないような刀を狩って来てやろう!楽しみに待っていろ!」

口々になまえに声をかけて、彼らは過去へと旅立って行った。

「主の策にぬかりはありません。どうか心安らかに部隊の帰還を待ちましょう」

近侍のへし切長谷部が肩に手を置き、励ましてくれる。
優しいその手に無性に縋りたくなった。
それを耐えて、本丸へ戻るべく踵を返す。

「みんな…どうか、無事に帰って来て」


その夜、皆無傷でそれぞれ土産を手に無事に帰還した三日月達は、なまえが燭台切光忠や歌仙兼定と共に作った料理を食べながら、なまえを囲んで手柄自慢、皆で楽しく語り合ったのだった。


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