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「主。文をお持ち致しました」

「ありがとう」

長谷部から受け取った書状を開く。
こんな古風な方法で連絡をとってくるのは政府か同じ審神者仲間くらいのものだ。
だから、今回もそう思って目を通したのだが。

「……はあ」

読み終わると同時に深いため息が出た。

「政府から何か?」

長谷部が心配そうに聞いてくる。
彼を安心させようと、あえて笑顔で軽い口調を装って言った。

「ううん、恋文」

「…恋文?」

「そう、この前演練で対戦した審神者の人から。私に一目惚れしたんだって」

「それで?何を切ればいいんです?」

「えっ」

「何をしましょうか?その審神者の手打ち?相手本丸の焼き討ち?御随意にどうぞ」

「ちょ、長谷部落ち着いて!」

「俺は冷静です」

「目が本気!」

「当然です。主に懸想するなど、許しがたい」

「そうだな、俺も手を貸そう」

縁側でお茶を飲んでいた三日月までそんなことを言い出した。

「三日月まで…」

「おかしいか?だが、この本丸の者なら誰もが同じことを言うだろう。皆お前を大切に想っているからな」

「素直に喜んでいいのかわからないよ」

「はっはっは、よきかなよきかな」

朗らかに笑うから、笑い話で終わったと思ったのだ。
その時は。


その夜、真夜中すぎのこと。
目が覚めたのでトイレに行って、離れの部屋に戻る途中に、三日月と会った。
寝間着ではなくいつもの服装の彼を不審に思い、

「こんな夜中にどう……」

どうしたのか、と問う途中で言葉が消えた。
月明かりに照らされた三日月の着衣が、赤黒いものでべったりと汚れてしまっていたからだ。
夜目にもわかる。それが返り血だということが。

「なに、散歩をしていたら野犬がいてな」

「…野犬…」

「襲ってきたので仕方なく斬った。驚かせてすまなかったな」

「本当に野犬?」

月の光の下にいる天下五剣の一振りは、ぞっとするほど美しかった。
血に濡れて尚──いや、むしろ返り血がその美を引き立てて際ただせていた。

「主よ」

三日月が微笑む。

「昼間言ったことを忘れるな。この本丸にいる者は、皆お前を大切に想っているのだ」

その腰に収められている剣で斬ったものは。

「無論、この俺も、な」

ゆっくり休めよ、と優しく声をかけてから、三日月はその場を立ち去った。

確かめようと思えば、簡単に出来ただろう。
しかし、どうしても確かめる勇気がなかった。

どうしても。


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