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本丸の敷地内にある畑の一角。
麻紐で固定された合掌式の支柱には蔓が巻き付き、幾つものきゅうりがぶら下がっている。
朝の内にそれを収穫し、冷たい井戸水で冷やしておく。
昼に台所に運んできたら、包丁で千切りにする。
薄切りハムも重ねて細切りにし、金糸玉子も同様に。
もやしはさっと茹でて、一度冷水に浸けて粗熱をとってから使う。

隣では長谷部が、茹でた麺を流水でぬめりをとってから氷水に浸け、水気を切って皿に盛り付けていた。

「主、こちらは出来ましたが」

「うん、ありがとう」

長谷部が皿に移してくれた麺の上に、切った食材を放射状に盛り付けていく。
彩りに、同じく畑で収穫して冷やしておいたミニトマトを添えた。
その上からあらかじめ作っておいたタレを回しかければ、見た目も鮮やかな冷やし中華の完成だ。

「やっぱり、夏はこれだよね」

出来上がった冷やし中華を前に、うんうんと頷く。

「長谷部は初めてなんだっけ」

「はい」

「美味しいよ。好きになってくれたら嬉しいな」

「主のお作りになったものは全て美味ですよ」

「長谷部…」

思わずじーんと来てしまった。
長谷部の両頬を手で包み込むようにして顔を引き寄せ、ちゅ、と唇を重ねる。
今日はみんな遠征や出陣で出払っていて長谷部と二人きりだから、少し大胆になっていたのかもしれない。
すると、長谷部の手が後頭部を支えて引き寄せられ、あたたかい舌が口の中に入ってきた。
口内を優しく撫でてから、私の舌を見つけて絡みつく。

「ん……ちゅ…」

ちゅくちゅくと音を立てて舌が吸われ、堪らず長谷部に縋りつく。
下唇を甘噛みして、ぺろりと舐めてから長谷部の舌は出ていった。
長谷部の手がゆるりと腰を撫でる。

「このまま続きを致しますか」

「だ、ダメだよ!麺が伸びちゃう。先に食べよ」

「わかりました」

素直に引き下がってくれたが、残念そうなのは気のせいではないはずだ。

「た…食べ終わったら……ね?」

「はい」

長谷部は恭しく頭を下げて頷き、冷やし中華の皿を両手に持った。

「主の部屋でよろしいですね?早く食べてしまいましょう」

「楽しみなのは冷やし中華?それとも」

「もちろん、両方です」

長谷部は当然と言わんばかりの顔で言ってのけた。
得意げな様子が可愛い。

「主の作って下さった冷やし中華を味わってから、貴女を隅々まで味わう。これ以上の幸せはありません」


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