井戸水で冷やしておいたスイカがちょうど食べ頃になったので、水から上げて包丁で切り分けた。 まずは待ちわびていた短刀達に配ってから、縁側へと向かう。 庭では、長谷部と薬研が手合わせをしていた。 「二人とも、お疲れさま。そろそろ切り上げよう」 「ん、もう終わりか」 「主の配下として、今後も共に頑張ろうじゃないか」 長谷部が構えを解いた薬研の肩を親しげに叩く。 二人とも汗だくだ。 「はい、タオル」 「ありがとうございます」 「お、悪いな、大将」 長谷部と薬研が縁側に座ってタオルで汗を拭いたところで、スイカの皿を差し出す。 薬研は、粟田口の兄弟と一緒に食べると言って、スイカの皿を持って中に入って行った。 「長谷部、一緒に食べよう」 「俺でよろしければ喜んで」 自分の分のスイカを持って長谷部の隣に腰を下ろす。 一番好きな三角の天辺部分にかぶりつくと、みずみずしい甘さが口いっぱいに広がった。 久しぶりに食べたけど、やっぱり美味しい。 夏はスイカに限る。 長谷部を見ると、器用に種を皿に取りながら食べていた。 端正なその顔を汗が伝う。 気がつくと、タオルで彼の顔を拭いていた。 完全に無意識の行動だった。 長谷部が驚いたように僅かに目を見張る。 その表情が可愛くて、彼の汗で湿ってキラキラしている前髪を手でかき上げて、額に浮いた汗を拭いてあげた。 それから、首の後ろからぐるりと首回りも。 その手を長谷部にやんわりと掴まれる。 長谷部の紫苑色の瞳がじっとこちらを見つめていた。 その瞳を見つめ返す。 「主、俺は……」 「わ、馬鹿、押すなっ」 どたばたと音がして、振り返ると、粟田口の兄弟達が障子の陰から次々と現れた。 「ねえ、あるじさん、口吸いは?」 「キスはなさらないんですか?」 「おいこら、お前ら。悪い、邪魔したな、大将」 薬研が頭を掻きながら兄弟達を回収していく。 彼らがいなくなると、再び静寂が訪れた。 「…スイカ、美味しいね」 「はい、とても」 縁側に突いた手に長谷部の手がそっと重なり、緩やかに指を絡められる。 普段刀を握っているその手はあたたかく、硬くてごつごつしていた。 刀剣男士の手だ。 私の大好きな手。 「もう邪魔者はいなくなりました」 「…うん」 「お慕いしております、主」 「…うん」 庭に落ちる二人の影が重なる。 風鈴の涼やかな音が風に乗って流れていった。 |