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一期一振が大阪城の地下から弟を連れて戻って来た。

「後藤藤四郎だ。うちは兄弟がいっぱいいるけど、背が高めなのが俺だ。チビどものことで困ったら言ってくれよな」

「うん、これからよろしくね」

挨拶を済ませ、薬研に本丸の案内を任せたのだが、我も我もと現れた他の粟田口の兄弟達が取り囲んで連れて行った。
また一段と賑やかになりそうだ。

「一期、大丈夫?」

私は一期のことが気がかりで、彼の頬に手をあてた。
大阪城は彼が焼け落ちた場所だ。想い出とともに。
当然いい気はしなかっただろう。

「辛かったでしょう。ごめんね」

「お気になさいますな。こうして無事弟と再会出来たのも主のお陰。私を大阪城へ向かわせて下さったこと、心より感謝しております」

一期が私の手を包み込む。
白い手袋越しに彼のぬくもりが伝わってくるようだった。

「ありがとう。疲れたでしょう、ゆっくり休んで」

「そうさせて頂きたいのですが、一つお願いが」

「なあに?」

「膝枕をして頂けませんか?」

一期からの珍しいお願いに、私はもちろんと頷いた。

場所を庭が見える縁側に移し、座布団を並べて敷いた上に寝転んでもらう。
一期の頭はもちろん私の膝の上だ。
さらりとした浅葱色の髪の毛を指で梳くと、一期は小さく息をついた。

「たまには甘える側に回るのも良いものですな」

「一期は普段、甘えさせる側だからね。お疲れさま、お兄さん」

「主に労って頂けると、日々の疲れが吹き飛ぶようです」

そうしてしばらく穏やかな時間が過ぎていった。
膝の上の一期の頭の重みが愛おしい。
一期の髪を撫でてあげていると、これまた珍しく、彼はうとうとと微睡みはじめた。
よほど疲れていたのだろう。

誰かに頼んで毛布を取ってきてもらおうかと思った時、賑やかな笑い声とともに粟田口の兄弟達が庭にまろび出て来た。
そのまま駆けたりじゃれたりして遊びはじめる。

「可愛いなあ」

「貴女もお可愛らしいですよ」

「あ、起きちゃった?」

「ええ、ですが充分休息はとれました」

一期が起き上がる。
彼は私の隣に並んで座り、庭で遊んでいる弟達に目を向けた。
その深い慈愛に満ちた眼差しに、なんだか彼らが羨ましくなる。
それを隠して、

「あんな可愛い弟達がいて羨ましい」

と呟いた。

「私と夫婦(めおと)になって下されば、すぐにでも貴女の弟になりますよ」

あまりにもさらりと言われたので、一瞬、何を言われたかわからなかった。
理解した瞬間、かっと頬が赤くなる。

「も、もう!からかわないで」

「からかってなど。私の本心からの言葉です」

「そりゃあいい!大将、いち兄と祝言を挙げろよ!」

「祝言!祝言!」

「主君が姉上に…幸せです」

「ちょ、こらこら!」

明るい笑い声が本丸に響き渡った。

穏やかな微笑みを浮かべて私を見つめている一期の顔が見られない。
ただ、あたたかい手が私の手を握っている感触だけが確かに伝わってきて、戸惑う私の心を、穏やかだけど情熱を秘めた熱い想いであたためてくれていた。


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