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「おはようございます、主」

枕元に座した長谷部に、布団に寝ている私は半ば寝ぼけたまま、おはよう、と返す。

「失礼致します」

蒸しタオルを両手で恭しく差し出した長谷部が、それを私の顔に被せる。
タオル越しに目頭をきゅっと押され、顔全体を優しく拭かれた。
目元は特に念入りに。
最後にこめかみをぎゅっと指圧されて耳をくるりと拭いてからタオルが顔から外された。

長谷部の両腕が身体と布団の間に差し込まれ、そっと上半身を起こされる。

「どうぞ」

良く冷えた麦茶を渡されて、私がそれを飲んでいる間に、首と肩を軽くマッサージされるのだが、これが堪らなく気持ちがいい。
ああ、全身に血が流れていってるう、という感じ。

「主」

私の身体を自分の膝の上に抱き上げた長谷部が唇を重ねてくる。
優しいばかりの口付けを繰り返されて、既に私の身体からは力が抜けてぐんにゃりとなってしまっていた。

「朝食を召し上がられますか」

それとも、俺になさいますか、と選択肢を提示される。
ここで長谷部を選べば、朝からコトが始まってしまうため、私は理性を総動員して朝食を選ばなければならない。

「た、食べます!」

「かしこまりました」

淡い青紫の瞳にやや残念そうな光が浮かんでいるのを気付かないふりをして、お盆に乗った朝食を用意してもらう。
しかし、私はまだ長谷部の膝の上に座らされたままだということを思い出してほしい。

「何から召し上がりますか。玉子焼き?焼き魚がよろしいですか?」

「じゃあ、玉子焼きから」

「では、お口を開けて下さい」

長谷部がこれまた恭しい手つきで、器用に口元まで運んでくれるので、私は口を開けて食べるだけでいいのだが、さすがにちょっと恥ずかしい。

でも、以前自分で食べられると言った時の長谷部の悲しそうな顔を思い出すと、どうしても断れずにいる。

「良く召し上がられましたね」

全部食べ終えてお茶を飲んでいると、優しく頭を撫でられた。
そのまま櫛で丁寧に髪を梳いていく。

毎朝こんなに甲斐甲斐しくお世話されていたら、長谷部がいないとダメな身体になりそうで怖い。

「なって下さい」

私の耳元で長谷部が甘く囁く。

「俺無しではいられない身体になって下さい」

「は、はせべ……?」

「そうすれば、あなたは俺だけのものになって下さるでしょう?」

俺だけを見て下さい。
他の男など目に入らなくなるくらいに。

甘い毒を流し込まれるように、耳元で切なげな美声で囁かれて、私は堪らず両手で真っ赤に染まった顔を覆った。
ダメだ。これは。
だめ、だめ。

「長谷部、ハウス!」

スン、とした顔をしているのかと思いきや、長谷部はどこか余裕を感じさせる澄ました声で答えた。

「主命とあらば、仕方ありませんね」


いいですよ。また明日がありますから。


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