「雪見酒とは乙なものですね」 庭に降り積もる雪を眺めながら長谷部が盃を傾ける。 障子を開け放っているので空気は冷たいが、私も長谷部も炬燵に入っているのでそれほど寒さは感じなかった。 二人とも色違いの綿入りの丹前を羽織っているからというのもある。 これが意外と温かい。 「たまにはこういうのもいいよね」 「はい、風情があります」 いつもより寛いだ様子の長谷部に、炬燵の上でぐつぐつ煮えている鍋から鰤の切り身やホタテなどを小皿に取り分けて渡すと、その端正な顔立ちに嬉しそうな笑みが浮かんだ。 「ありがとうございます」 「うん。いっぱい食べて」 長谷部が綺麗な箸使いで白菜を食べるのを見ながら、私も盃のお酒を飲んだ。 普段お酒はあまり飲まないのだが今日は特別。 久しぶりに飲むお酒のお陰か、お腹の中から温まっていくような気がした。 長谷部と二人で鍋。 長谷部と二人で雪見酒。 至福のひとときだ。 「長谷部、注いであげる」 「いえ、今度は俺が」 「私を酔わせてどうするつもり?」 「そんなつもりでは」 「嘘、うそ。冗談だよ。私はもう充分だから、長谷部は気にせず飲んで」 「俺を酔わせてどうするおつもりですか」 「そうだなあ、どうしようかな」 長谷部がこういう冗談に乗ってくるのは珍しい。 私もいい加減ほろ酔い気分だが、彼も少し酔っているのかもしれない。 酔った勢いで言ってもいいだろうか。 「長谷部、ずっと傍にいてね」 「はい、お側におります」 盃を置いた長谷部は生真面目な表情でそう答えた。 「貴女が嫌だと言っても、俺は貴女のお側を離れません。絶対に」 「絶対に?」 「約束します」 「歴史修正者との戦いが終わったら、連れて逃げてくれる?」 「貴女がそう望むなら。何処までもお連れしましょう」 「長谷部…」 じんと胸が熱くなった。 慌てて笑って取り繕う。 「なんてね。ごめん、今のは忘れて」 「俺は本気です」 「…長谷部」 「俺は貴女を離さない。絶対に。何があろうともお側におります」 思わず瞳が潤む。 しんしんと降り積もる真っ白な雪。 白く閉ざされた世界の中で、ただ、向けられる真摯な眼差しだけが熱く私を貫いていた。 |