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世間では夏休みが始まった頃だろう。
しかし、歴史修正者は待ってはくれない。
遡行軍との戦いは日々激しさを増すばかりだ。

せめて本丸にいる間は心安らかでいられるようにと様々な工夫をしているのだが、今はちょうど夏なので、スイカ割りをしたり、竹で樋を作って流し素麺をやったりと、夏ならではのイベントを楽しんで貰っている。
せっかく人の姿で顕現したのだから、つらい戦いばかりではなく、人だからこそ楽しめることを体験させてあげたいと願ってのことだった。

今日は花火大会をやろうと花火を仕入れたのは良いのだが、重過ぎて一人では運べそうにない。

「主、困っていることはないか?欲しいものはないか?」

最近加入したばかりの巴形薙刀がそう申し出てくれたので、じゃあお願いしようかなと言いかけた途端、長谷部が割って入ってきた。

「これを運べば良いのですね。俺にお任せ下さい」

「ありがとう、長谷部」

巴形にもお礼をしようと振り向けば、彼は長谷部をじっと見ていた。

「長谷部。以前も話したが、逸話を持たぬ俺は今代の主しかいないのだ。だがお前はそうではなかろう」

「……だから?」

「譲れ」

「断る!……コホン、それに、それは俺ではなく主が決めることだ」

長谷部が私を見る。
えっ、ここで私に振るの?

「巴形ありがとう。でも今日は長谷部にお願いするね。巴形は皆を呼んで来てくれないかな。中庭に集まってって」

「主がそう決めたのならば」

素直に引き下がってくれたのでほっとする。
喧嘩にならなくて良かった。

「では、何かあればまた呼べ」

「うん。その時はよろしくね」

巴形が完全に立ち去るまで、長谷部は油断なくその姿を目で追っていた。

「…長谷部」

「申し訳ありません。ですが、主の命を果たすのは俺でありたいのです」

「私の一番は長谷部だよ」

「ありがとうございます。これからも誠心誠意お仕え致します」

長谷部は一礼すると、花火の入った箱を抱えて歩いていった。
やれやれである。

「大将、どうしたんだ?」

薬研をはじめとする短刀達がやって来たので花火の説明をする。
皆興味津々といった様子で中庭に集まって来た。

「薬研、バケツに水を入れて来てくれる?」

「わかった」

薬研に水を入れたバケツを持ってきてもらい、試しに一つ花火に火をつけてみせる。
シュッと音を立てて吹き出した火花に、短刀達がわあっと声を上げた。

「皆の分あるから、火をつけるのは一つずつね。終わったらバケツに入れて」

「はい」

「わかりました!」

わっと花火に群がる男士達。
こういうところは普通の男の子と変わらないなと微笑ましく思いながら縁側に座って彼らを眺める。

「主の分をお持ちしました」

「ありがとう、長谷部」

寝間着代わりの浴衣を着た長谷部が隣に腰を下ろす。
二人して手にしたのは線香花火だ。
今の時代希少価値になってしまったそれに火をつけ、パチパチと火花が爆ぜる様子を見守った。

「美しいですが、儚いものですね」

「うん。終わった後はなんとなく寂しい気持ちになる」

あっという間に燃え尽きた花火は、ぽとりと先端が落ちて消えてしまった。

「俺達ならば大丈夫です。儚く燃え尽きたりは致しません」

「長谷部…そうだね。皆は強いから大丈夫だよね」

「俺を信じて下さい。貴女を置いて折れたりはしません」

「うん…信じる」

皆が花火に夢中になっている中、ひっそりと指を絡め合わせた。
花火のように儚く散ってしまわないでと願いながら。


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