1/1 


もしかすると風邪をひいたかもしれない。

この年末年始の忙しい時期に寝込むわけにはいかないので、すぐ薬研に診察してもらうことにした。

「始めるぞ、大将」

「うん、お願い」

着物のあわせ目から薬研の手が入ってくる。
聴診器のひやりとした感触に思わず身をすくませたが、すぐに体温と混ざって気にならなくなった。
そうして、しばらく時間をかけて胸をまさぐられる。
といっても、いやらしい感じは全くしない。
これはあくまでも診察なのだ。

「今度は後ろを向いてくれ」

「うん」

薬研に背を向け、着物を肩から滑り落とす。
あらわになった背中に、またひやりとした感触が当たる。
何ヵ所かそうして聴診器を当てて音を聞いてから、薬研が「もういいぜ、大将」と言ってくれたので、着物を着直した。
また薬研のほうに向き直る。

「今度は口の中を見るからな」

あーんと口を開いて見せると、薬研は軽く舌を押さえて喉の様子を観察したようだ。
耳の下のリンパ腺がある辺りに手が触れる。

「少し腫れてるな。喉も赤くなってる」

薬研が冷静な口調で言った。

「風邪のひきはじめってところか。薬を飲んでおけば大丈夫だ」

「ありがとう、薬研」

「礼を言うのは早いぜ。何しろ、これから飲んで貰うのはとびきり苦い丸薬だからな」

「薬研が飲ませてくれるんでしょう」

「もちろん。仰せの通りに」

わざとかしこまった言い方をした薬研は、小さな布袋から黒っぽい丸薬を一粒取り出して私の口元に運んだ。
正露丸みたいな匂いがする。
たぶん味も似たようなものだろう。
いや、とびきり苦いと言っていたからもっと苦いのか。

口を開けると、ぽいと中に丸薬を入れられる。
無理矢理飲み込む私を見て小さく笑った薬研は、湯飲みの中身を煽ると、私に口づけた。
口移しで与えられたあたたかく甘い液体が喉を滑り降りていく。

「ん……ん、ちゅ」

舌を絡めて吸われ、口腔を舐め回してから薬研の舌は出ていった。
親指で濡れた唇を拭われる。

「はちみつ?」

「正解だ」

先ほど飲まされたのは、蜂蜜を湯に溶かしたものだったらしい。

「少しは苦いのがましになったか?」

「まだ苦い」

嘘だった。
とっくに苦味などどこかへいってしまっていたけれど、わざと甘えた口調で言えば、微笑んだ薬研が再び唇を重ねてきた。
そのまま優しく布団の上に仰向けに倒され、先ほどよりも情熱的に唇を貪られる。

「あ……薬研……」

「少し運動して汗をかくか、大将」

薬研の手が着物の前を割り開く。
その勢いのまま、ぷるんとまろびでた胸の膨らみに薬研が顔を伏せた。
今度は診察のためではなく、快楽を引き出すために。


  戻る  
1/1
- ナノ -