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畳の上を掃くには、やはり昔ながらの箒が一番だ。
職人が作り上げた立派な箒は10年は保つというが、この広大な本丸を毎日のように掃除していると、すぐに傷んでしまう。
これで何度目かの買い替えを済ませた新しい箒を使い、隅々まで丁寧に掃き清めていく。

「ご主人様、塵取りを持って来たよ!」

「ありがとう、亀甲」

「礼には及ばないよ。それより、来るのが遅いって叱ってほしいな」

「長谷部ー!長谷部えぇぇ!」

「ああっ!ぼくがいるのに他の男を頼るなんて!……イイっ」

「お呼びですか、主」

塵取りを持ったまま身悶える亀甲の後ろから長谷部が駆けつけてきた。

「というか、亀甲、その格好でお掃除するのはちょっと…」

「この服の下?っふふ、わかってて言わせようって言うのかい?」

「長谷部、ゴミを掃き取るから塵取り持ってて」

「はっ、かしこまりました。ほら、それを寄越せ」

「あっ!ぼくが持って来たのに!」

亀甲から奪った塵取りを構えた長谷部に、箒で集めたゴミを掃き入れる。

「ご主人様、次は拭き掃除だね!雑巾とバケツを持って来るよ!」

「待て、俺が行く。あ、こら!」

「ご主人様の寵愛はぼくのものだよ!」

「なんだと貴様!主の一番はこの俺だ!」

亀甲と長谷部が争いながら廊下を走って行く。
半ば呆れながら待っていると、二人はすぐに戻って来た。
どたばたと足音荒く、争いながら駆けてくる。

「雑巾がけをするのはこの俺だ!」

「綺麗にした廊下をご主人様の前で舐めて見せる気だね!そうはいかないよ!蔑んだ目で見られるのは、このぼくだ!」

「二人とも…仲良く雑巾がけして」

「主命とあらば、喜んで」

「わかったよ、ご主人様。ぼくに任せて。端から端まで綺麗にしてみせるよ!」

「あ、こら!抜け駆けするんじゃない!」

二人はまたしても争いながら廊下の端から雑巾がけを始めた。
文字通り、端から端まで丁寧に。凄いスピードで。
いや、綺麗になるならいいんだけど。

「はっはっはっ、朝から賑やかだな」

「三日月」

お茶のセットが乗ったお盆を手にやって来た三日月が、拭き掃除をして乾いたばかりの縁側に腰を降ろす。
そうして、のどかにお茶を飲み始めた。

「どうしたの?休憩?」

「なに、邪魔だと追い出されてしまってな」

「あはは…」

「主もどうだ?」

「ありがとう。でも、今は遠慮しておく。二人に雑巾がけをやらせておいてお茶するわけにはいかないし」

「主、終わりました!」

「ご主人様、終わったよ!」

よく懐いたわんこのように、抜きつ抜かれつしながら二人が駆けて来る。

「綺麗になったよ。舐めて見せようか?」

「いや、いいよ…亀甲、お疲れさま。長谷部もありがとう」

「いえ、お気になさらず。他に何かあればなんでも言って下さい。俺は気位だけ高い連中とは違いますから」

修行に行って全部吹っ切れたのかと思いきや、むしろ更に拗らせて帰ってきた。

亀甲もそうだ。

「はっはっはっはっは、よきかなよきかな」

「良い……のかな?」

三日月ほど達観することは出来ず。
またもや争いながら私のためにお茶を淹れている長谷部と亀甲を見ながら、私は苦い笑いを浮かべるしかなかった。


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