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刺されたその瞬間。
痛い、というより、熱い、と感じた。

自分の身体を貫き通した巨大な刃が引き抜かれるのと同時に、全身から力が抜けたようになってその場に倒れ込む。

完全に油断していた。
審神者である私の判断ミスだ。
まさか、遡行軍が直接本丸を襲撃してくるなんて、思ってもみなかった。

本丸に張られた結界を破壊して遡行軍が乗り込んで来た時、運悪く第一部隊は出陣した後だった。
残っていたのは、短刀をはじめとするまだレベリングが充分でない刀達。
彼らは良く戦ってくれた。
本丸の建物や畑などに被害が出なかったのは彼らのお陰だ。

ただ、戦う術を持っていなかった私は、離れに乗り込んで来た大太刀によって腹を刺し貫かれてしまった。

倒れた私の身体の上に、ぽつり、ぽつり、と雨粒が降り注ぐ。

ああ、ここで死ぬのだな、と受け入れざるを得ない状況だった。

「主!」

しかし、死を覚悟した私の耳に聞こえてきたのは、今朝第一部隊の隊長を任せて出陣したはずの長谷部の声だった。

「主!しっかりして下さい、主っ!」

大太刀を一太刀で斬り伏せた長谷部が、青ざめながら私を抱き起こす。
その腕も膝も、私から流れ出した血で真っ赤に染まっていった。

死ぬのだと思った。

長谷部もそう思っていたはずだ。

だが、しかし。

「もう大丈夫だから…長谷部」

「いけません。まだ体力が戻っていないのですから、大人しくしていて下さい」

死にかけたところを見られているので、さすがにそれ以上強くは出られない。

時の政府の最先端医療のお陰で、私は奇跡的に助かった。
いち早く報せに走ってくれたこんのすけが医療チームを連れて戻って来てくれたからだ。

ギリギリで急所を外すなんて器用な真似が出来るはずもなく、刺し傷は臓器を傷つけて背中まで貫通していた。
しかし、そうした傷ついた臓器も、クローン培養した新しいものと交換して、完全な健康体として復活したわけである。

「傷痕は本当に残らないのですね?」

「うん、綺麗に治るって」

「良かった……倒れていたあなたを見つけた時は、心底肝が冷えましたよ」

「ごめんね、長谷部。助けに来てくれてありがとう」

「いえ、ご無事で何よりです。俺はあなたの刀ですから」

当然のことをしたまでですと、するすると林檎の皮を剥きながら長谷部が生真面目に返す。

「長谷部の声が聞こえた時、凄く安心した」

「俺はあなたを失うのではないかと気が気ではありませんでした」

さくり、さくり、と林檎を切り分けた長谷部は、困ったように微笑んで私に林檎を差し出した。

「さあ、お召し上がり下さい」

「ありがとう」

あーん、と口を開ければ、そっと恭しく林檎を口に運ばれる。

「美味しい」

適度に間をおいて長谷部が運んでくれる甘い蜜入り林檎をシャクシャク食べる。
食べ終わると、長谷部によってまた横に寝かされた。

「少しお休み下さい。俺がお側におりますので」

「うん、おやすみ、長谷部」

「おやすみなさい、なまえ様」

長谷部の手に頬をするりと撫でられる。
その感触とぬくもりに安堵を覚えながら、私はゆっくりと目を閉じた。


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