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「きみ、知ってるか」

珍しく真剣な表情の鶴丸に、何を言い出すつもりなのかと身構えていたら、

「隣の本丸が全滅したらしい」

「ええっ!?」

「こんのすけに聞いた話だから確かだろう。詳しいことはまだ調査中だそうだが……おい、大丈夫か?」

よほど酷い顔色になっていたのだろう。
うつ向いた私の顔を鶴丸が心配そうに覗き込んでくる。

「大丈夫…」

「悪かった。もっと言い方に配慮すべきだったな」

「鶴丸は悪くないよ」

「無理しなくていい。顔が真っ青だぜ」

優しく抱き寄せられるままに鶴丸の胸に身を預けると、あやすように背中を撫でてくれる。

「俺を頼ってくれ。こういう時のための近侍だろ」

「うん…ありがとう」

隣の本丸と言っても、町一つ分ほど離れているし、普段からご近所さんとしての交流があったわけでもない。
演練で何度か顔を合わせたことがあるだけだ。
だから、自分でもこれほどショックを受けるとは思っていなかった。
この仕事の危険性についてはとっくの昔に覚悟が出来ているつもりでいたのに、この有り様だ。情けない。

「気分転換に万屋にでも行くか?」

「うん…一緒に行ってくれる?」

「おやおや。俺への贈り物なら、相談しないほうがいいんじゃないか?」

「もう、鶴丸ってば」

「はっはは!そうだ、その顔だ。きみは笑顔のほうが可愛いぜ」

からかわれているのか口説かれているのか判断に困る態度だが、彼のお陰で元気が出たことは確かだ。
万屋でお団子でも買ってお礼をしよう。
そう暢気に考えていたのだった、この時は、まだ。

万屋に着いた後は、あまり重いものを持たせてもなんだからと、御守りを人数分買い、お店の外の緋毛氈が敷かれた縁台に鶴丸と並んで座って名物の三色団子を食べた。

「これって何だかデートみたい」

「ん?デートだろ?」

なんて会話を交わしたりして。
久しぶりの外出を楽しんでいた。

そんな空気が一変したのは、帰り道でのことだった。

突然、さっと冷たい風が吹いたかと思うと、黒いモヤのようなものから次々と時間遡行軍の太刀や短刀が現れたのだ。

「鶴丸…!」

「大丈夫だ。大船に乗ったつもりで任せておけ」

鶴丸は全く動じた風もなく、私を背に庇って敵に向き直った。

「奇襲は仕掛けられるより仕掛けるほうが好きなんだが……聞いちゃいないか」

鶴丸に向かって放たれた攻撃が、太刀を抜いて何気なく一振りした動きだけではね除けられる。

「後ろだぜ?」

目にも止まらぬ速さで敵の背後に移動した鶴丸が、一太刀のもとに敵を斬り伏せた。

「遅い遅い!」

挑発的に笑った鶴丸が次々と敵を倒していく様子を、私は半ば頼もしく、半ば呆気にとられながら見守っていた。
私の近侍、ちょっと強すぎない?

「これで終わりだ」

最後の敵である禍々しい妖気を纏った太刀を一刀両断した鶴丸が、刀を振ってから鞘に収めたのを見て、ようやく詰めていた息を吐き出すことが出来た。

「どうだ、惚れ直したか?」

「うん、凄かった」

「そう素直に褒められると照れるな」

先ほどの鬼神のような戦いぶりなど感じさせぬように、相変わらず軽口を叩きながら鶴丸が私に背を向けてしゃがみこむ。

「ほら、おんぶしてやる」

「えっ…いいよ!」

「脚、震えてるぜ。怖かったんだろ」

「うっ…」

私は渋々彼の背中に背負われた。
光忠ではないけれど、これじゃあ格好がつかない。

「悪かったな。怖い思いをさせちまって」

「鶴丸が守ってくれるって信じてたから、平気」

「ああ、どんな敵が来ようと、きみは俺が必ず守ってやる」

鶴丸の背中はあたたかく、頼もしかった。
その言葉もとても嬉しかった。

「泣くなよ。泣くなら俺の胸で泣いてくれ」

「な、泣いてないよ!」

嘘だ。ちょっぴり泣いてしまった。あまりにも嬉しくて。

本丸に帰った私達を出迎えてくれた長谷部が目敏く私の涙の痕を見つけて鶴丸を問いただし、襲撃のことを知り、鶴丸に雷を落とすことになるのだが、それは仕方のないことだった。

今度必ず埋め合わせをするから許してね。


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