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最近、気がつくといつも近くに三日月がいる。

誰かと話していると、いつの間にか傍らに立っていて自然に会話に入っているし、
庭で遊ぶ短刀達を縁側に座って眺めていると、いつの間にか隣に座っていて和やかにお茶を飲んでいたりする。

特に強く感じるのは視線だ。
気がつくと三日月が見ている。
見られている。

いつも
いつも
いつも。

なんだか怖くなって、それから三日月を避けるようになってしまった。


「はいはい、どうどう」

厩の前で今剣が馬を宥めている。
なまえは感心してその様子を見守っていた。

「凄いね、今剣」

「うまのきげんをとるのはとくいなんですよ」

普段は幼子のように鬼ごっこなどして遊んでいる短刀が、この時ばかりは頼もしく思える。

「ふわぁ…」

「あはは、あるじさま、おおきなあくび!」

「最近なんだか寝苦しくて。夢見が悪いせいかな」

「わるいゆめですか?」

と、不意に馬が顔をあげ、今剣の手を離れて歩き出した。
慌てて手綱を引き寄せようとする今剣の後ろでなまえの表情が強ばる。

「どれ、俺も混ぜてくれ」

馬は、その顔を三日月の手に撫でられて満足そうに大人しくしていた。

「馬に好かれて困る」と笑っているが、ちっとも困っている様子はない。
むしろ嬉しそうだ。
その目がなまえを捉える。

「あのっ、ごめんなさい、私用事を思い出して…!」

「主」

「ごめんなさい…!」

思わず逃げ出してしまった。

(どうしてこんなに三日月さんが怖いんだろう…)

まだ震えが止まらない。
自分でもよくわからないまま、その夜は床(とこ)についた。


──真夜中を少し過ぎた頃だろうか。
なまえは息苦しさを感じて目を覚ました。

「ん……ぅ!?」

咄嗟に声が出せなかったのは、深く、深く、口付けられていたから。
情熱的に舌を絡めとられて、吸われている。
視界いっぱいに逆さまに広がる端正な顔立ちには見覚えがあった。

「んんッ!」

慌ててその身体を押し返す。
離れた唇と唇の間を銀色の糸が引いた。

「ははは、見つかってしまったか」

「な、なに…して…」

「ん?口吸いをな」

三日月の指が濡れているなまえの唇の上をなぞる。

「どうして、こんなっ」

「俺を避けているだろう」

「そ、れは…」

「好いた女に避けられるのは、俺もつらい」

静かな声音で告げられ、なまえは絶句した。
三日月がまた顔を寄せてきたので、慌てて顔を背けて避ける。

「意地の悪い真似をしないでくれ」

「駄目です!こんなのは…!」

「審神者(さにわ)と付喪神だからか?それだけではないだろう。何故そこまで俺を怖がる」

「わかりません…でも…」

「怖い、か。やれやれ。こちらはとっくに狂わされているというのに、主は残酷だな」

顔の横で腕を掴まれ、押さえつけられる。
痛くはないが、絶対に逃げられない力加減で動きを封じられる。

「せめて、逃げるのはやめてくれ。さもないと、口吸いだけでは済まなくなるぞ」

瞳に涙をためて震えるなまえを見下ろしていた三日月が、また顔を寄せてくる。
今度は逃げることは出来なかった。

甘く口付けられる。
何度も。
何度も。

その切なげに細められた瞳の中に黄金の三日月があるのを見つけてなまえは目を閉じた。

まるで刃のようだと思いながら。


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