今日が日曜日だということが幸いした、と蓮二は言った。

この立海大附属高校は、中学と敷地を共有している。
“それ”が起こった時、校内にいた生徒は何らかの部活に所属している生徒だけだったから、中高合わせてもそれほど人数は居なかった。
そうでなければ──もしもこれが平日だったら、地元でもマンモス校として有名なうちの学校がどうなっていたことか。

この日、私と私の幼なじみの柳蓮二は生徒会の仕事をするために生徒会室にいたのだが、異変にはすぐに気がついた。

最初の襲撃者は外から来たのだと思う。たぶん。
アレに噛まれると犠牲者もアレに変わる。
そうして外で襲われた誰かが学校に入ってきて、それから……。
だから、真っ先に犠牲になったのは校舎の外にいた生徒達だった。
野球部やサッカー部などだ。

私達が生徒会室から出て、実際に誰かが襲われているところを見た時にはもう既にかなりの数の犠牲者が出ていたと思われる。
その時にはアレが校内に侵入してきていたからだ。

校舎内の配置が幸いして、私と蓮二は生徒会室に立て籠る事が出来た。
アレが人を襲っているところを目撃してショックで棒立ちになってしまっていた私を引っ張って蓮二が生徒会室に避難してくれたのである。

突然襲ってきたアレが何なのかはわからない。
ただ、校内だけではなく、町のいたるところにアレが徘徊しているだろうことは容易に想像出来た。

「ここには数日分の食糧と水がある。避難物質の保管庫まで行ければ1ヶ月分は余裕で確保出来るだろう」

でも、そのためにはこの部屋から出なければならない。
今はまだ蓮二も私もそうすることは考えられなかった。

「ネットではもう話題になっているな。かなり有益な情報が上がってきている」

パソコンを操作しながら蓮二が言った。

「アレは複数の場所で同時多発的に発生したらしい」

椅子の上で膝を抱えていた私は、彼に促されて画面を覗き込んだ。
そこには様々な情報が氾濫していた。

ネットではアレを単純にゾンビと呼んでいた。
映画と同じだ。
ゾンビに噛まれたりひっかかれたりした者もまたゾンビとなる。

今頃学校の敷地内は、アレに食い散らかされた残骸や血でいっぱいになっているのかもしれない。

私が口元を両手で押さえると、蓮二が優しく頭を撫でてくれた。

彼は驚くほど冷静だ。
冷静に今の状況を受け入れ、分析し、どうすれば生き残れるのか方法を探している。

「…お母さん…」

思わずもれた小さな声を聞きつけた蓮二は、パソコンに向けていた身体をこちらに向き直らせ、私を抱き締めた。
そうして、子守歌でも歌うような優しい声で囁くのだ。


「大丈夫だ。何があっても、お前だけは必ず俺が守る」

と。


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