「やあ。初めまして。俺の名前は及川徹だよ。君の名前は?」

「苗字なまえです」

「なまえちゃんか。可愛い名前だね」

「ありがとうございます」

「あれ?もしかして緊張してる?大丈夫、大丈夫、リラックスして俺に全部任せてよ」

初めてのホストクラブで緊張していたのだが、ほんの少し緊張が和らいだ。
明るく、気遣いの出来る、話しやすそうな人だ。

及川は流れるようなしなやかな動きでさりげなくなまえの隣に座った。
いかにも女の子慣れしてそうな感じを受ける。

「喉が渇いたんじゃないかな?飲み物を用意させるよ」

「あ、じゃあ、何かカクテル系でお任せします」

「カクテルだね。任せて」

及川の指示を受けて、同じく黒いスーツ姿の青年が素早くカクテルを作り始める。
シェイカーを振るその手つきはプロ顔負けで様になっていてカッコいい。

「ダメだよ。今日は俺だけを見ていてくれないと」

そっと頬に手を添えられて及川のほうに顔を向けさせられる。
端正な顔立ち、強い瞳にじっと見つめられてなまえは赤くなった。
こういう所なのだとわかっていても心臓に悪い。

「お待たせしました」

カクテルを作っていた青年が優雅になまえの傍らに跪く。
渡されたのは、『アイ・オープナー』。
ラムをベースにオレンジリキュールや卵黄などで甘口に仕上げたカクテルだ。

「このカクテルには“運命の出逢い”という意味があるんだ」

「えっ」

「俺に運命を感じさせてくれた君へ、このカクテルを捧げるよ」

同じカクテルのグラスを軽く掲げて及川が微笑む。
なまえはドキドキしながら同じようにカクテルグラスを掲げて乾杯の意を示した。


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