「へし切長谷部、と言います。主命とあらば、何でもこなしますよ」 「苗字なまえです。よろしくお願いします。えっと…」 「できればへし切ではなく、長谷部と呼んで下さい。前の主の狼藉が由来なので」 「じゃあ、長谷部さん」 「はい、なまえ様」 精悍な面立ちといい、立ち居振舞いといい、見るからに実直そうな青年だ。 彼はこの店のNo.3ホストらしいが、偉い人の近侍を務めているほうが似合っていそうだと思った。 「なまえ様、お側に行ってもよろしいでしょうか?」 「あ、はい、どうぞ」 「失礼致します」 長谷部は流れるようなしなやかな動作でなまえの隣に座った。 離れすぎず近すぎずの距離。 「喉が渇いたでしょう。飲み物を用意させますよ」 「あ、じゃあ、何かカクテル系でお任せします」 「カクテルですね。お任せ下さい」 テーブルのサイドにあったワゴンから必要な道具を取り出し、素早くカクテルを作り始める。 シェイカーを振るその手つきはプロ顔負けで様になっていてカッコいい。 「お待たせしました」 長谷部が優雅な仕草でなまえにカクテルを手渡す。 渡されたのは、『アイ・オープナー』。 ラムをベースにオレンジリキュールや卵黄などで甘口に仕上げたカクテルだ。 「“運命の出逢い”という意味があるのですよ」 「えっ」 「私に運命を感じさせてくれた貴女へ、このカクテルを捧げます」 真摯な表情で告げられ、なまえはドキドキしながらカクテルグラスを掲げて乾杯の意を示した。 長谷部も赤いワインを掲げてみせる。 「じゃあ、いただきます」 →NEXT |