ようやく覚えたボーゲンでなんとか麓のレストハウスまで辿り着き、なまえは一息ついた。
振り返って見上げれば、殆ど急坂レベルの傾斜が目に入る。
これを滑り降りて来たなんて信じられない。
良かった、無事に降りられて。

そういえば、こんな感じのオープニングで始まる怖いゲームがあった気がする。


「えーと、なんだっけ……かま…鎌?かまいたちの、わっ!」

確か、タイトルは…などと考えていたら、安堵して気が抜けたのか、よろけて尻餅をついてしまった。
そんな彼女の後から白銀の斜面を颯爽と滑り降りて来た人物が目の前で鮮やかに止まる。


「大丈夫かい?」


彼は笑い混じりの声でそう言ってなまえに手を差し伸べてきた。
その手を借りて立ち上がり、身体についた雪をぱたぱたと払い落とす。


「大丈夫です。そんなに思いきり転んだわけじゃないし、ちょっとお尻が痛いだけで」

「可哀想に。撫でてあげよう」

「半兵衛さん!」


珍しく声をあげて笑った半兵衛の、白地に紫のラインが入ったスキーウェアが眩しい。
というか、半兵衛自身が眩しい。キラキラして見える。
たぶん今このゲレンデで一番輝いているんじゃないだろうか。
これは惚れた欲目というだけではないはずだ。

なまえは今、冬休みを利用してスキー旅行に来ているところだった。
人生初のスキー体験である。

国家公務員(半兵衛)
国家公務員(秀吉)
音楽教師 (ねね)
フリーター(慶次)
女子大生 (なまえ)

というカオスなメンバーだが、一番はしゃいでいるのがフリーターであることは言うまでもない。

スキー場に来て思ったのは、カップルよりも家族連れが多いこと、そして利用客の年齢層が意外と高めなんだなということだった。

ゴーグルを着けていたり、皆がスキーウェアなので、はっきりそうだとは言い切れないものの、たぶん三十代から四十代くらいが一番多い。
世代的に言ってバブル絶頂期のスキーブームのときに来ていた人達だろう。
そういう人達が自分の子供を連れて家族で来ているようだ。

そういえば、スキー場に流れているBGMも80年代から90年代のヒットソングが多いような気がする。
スキー用品の歴代CMソングとして有名な曲も幾つか流れていた。
利用客の大多数にとっては耳慣れた曲ばかりで、これぞゲレンデソングといった感じで盛り上がるのかもしれない。
世代が違うなまえも何となく懐かしい気持ちになったくらいだ。

ただ、これが初スキーのスキー初心者としては、周りの独特な雰囲気に呑まれて少々置いてきぼりな気分を味わうことが度々あった。


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