不二くんと一緒に下に降りると、談話室のソファに三人の女の子が座っていた。
ガイドブックらしきものを開いて楽しそうに話している。

食堂に行くために彼女達の前を通ったとき、三人とも不二くんにチラチラと視線を送っているのがわかった。
これだけカッコいいんだから仕方ないと言えば仕方ない。

「お腹すいたね」

彼女達の視線に気づいているに違いない不二くんは、しかし、全く気にした様子もなく私に笑顔を向けてくる。
彼にとっては女の子の熱視線なんて日常的な当たり前のものであって、特別意識する必要もないものなんだろう。
今更ながらに凄い人を好きになってしまったものだとつくづく思う。

「うん、お腹ぺこぺこ」

「沢山滑ったからね」

ストッパーを使って開放した状態のまま固定されているドアから食堂に入った途端、隣のキッチンから流れ込んでくる良い香りが鼻孔をくすぐった。
香草焼きだろうか?
うん、ハーブっぽい。

「叔父さん、料理得意なんだって?ただのペンションじゃなくてオーベルジュ並みだって聞いてるよ。楽しみだなぁ」

「えっ、そんな話まで回ってるの!?」

「回ってるよ」

不二くんは笑って、窓際のテーブルに歩いていった。
椅子を引いて私を先に座らせてくれた後に、自分も向かい側に座る。
ごく自然でさりげないエスコートに胸が高鳴った。やっぱり不二くんは王子様みたいな人だ。

「なんてね。冗談。本当は、なまえちゃんに誘われた後でネットの紹介記事を見たんだ。絶賛されてたよ」

「あ…そうだったんだ」

自分が誉められわけじゃないのに何だか照れくさい。
と、不意にテーブルの上に置いた手があたたかいものに包まれる。
不二くんの手だ。

「不二くん…?」

「ねえ、なまえちゃん。キミはどうしてボクがこの旅行に一緒に来たと思う?」

「え……そ、それは勿論、スキーが好きだから、」

「確かにスキーは好きだよ。でも、そんな理由じゃない」

私は息を飲んだ。

「結構分かりやすく好意を示してたつもりなんだけどな」

「え、う、うそ」

「嘘じゃないよ」

なまえちゃんって意外と鈍感だよね、と笑って、柔らかく重ねられた手に指を絡められる。

「ずっとこうしたかった…」

「ふ、不二くん…」

「残念だけどそろそろ夕食の時間みたいだ」

不二くんが時計を見て言った。

「物足りないって顔してるね。ボクも我慢するから続きはまた後でね」


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