窓の外は激しい吹雪。

雪に閉ざされた山奥のペンションは完全に外界から隔絶され、陸の孤島と化していた。
助けを呼ぼうにも、何者かに電話線を切断されてしまったせいで受話器の向こうは虚しい沈黙が流れるだけだ。

万が一通話が可能だったとしても、もう電話がある一階にはとても降りて行く気にはなれない。
一階へと続く階段には女性の死体があり、階段は彼女の身体から滴り落ちた血で濡れているのだから。

それだけではない。

なまえを含むほんの数人の宿泊客を残して、他の客やペンションの従業員は何者かの手によって殺害され、ペンションのあちこちに物言わぬ死体となって転がっているのだった。


(まさかこんなことになるなんて……)


なまえは自らの身体を両腕で抱きしめるようにして、ぶるりと身を震わせた。

連休を使った楽しいスキー旅行。
──のはずだった。
それが、こんな恐ろしい惨劇に巻き込まれることになろうとは。

ふわ、と肩を何か温かい物に包み込まれる感触に、なまえははっと顔を上げた。


「大丈夫ですよ、なまえさん。落ち着いて」


毛布をかけてくれた赤屍が優しく微笑む。
こんな状況で落ち着けるはずもなかったが、不思議と彼の声はなまえの恐怖を和らげてくれた。
彼が傍にいると、守られていると感じられる。

なまえが弱々しく微笑みかえすと、赤屍は毛布でその身体を包み込むようにして抱きしめた。


「今…何時頃なんでしょう……」

「もう少しで12時になるところです。眠れそうなら少し眠ったほうがいい」


赤屍と毛布のぬくもりを感じながら、ゆるく首を横に振る。

夕食を終えた時までは何ともなかった。
それからだ。
姿の見えない殺人鬼による凶行が始まったのは。

一人ずつ、死んでいく。
いつの間にか死体が増えている。
それは想像を絶する恐怖だった。
今こうしている間にも、部屋のドアの前に殺人鬼が忍び寄ってきているのではないかと思うと、とてもじゃないが眠る気にはなれない。


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