懇願してなんとかシャワーを浴びる事は許して貰えた。
だが、逆にもうこれで完全に逃げられなくなってしまったわけだ。

先に半兵衛。
そして、その後なまえが浴室を使った。
出来るだけ隅々まで丁寧に洗ったものの、不安は消えない。

シャワーを出て、洗面台の鏡でどこかおかしな所はないかチェックする。
どうせこれからいたしてしまうのだから下着を身につける必要はないのだが、それだといかにも「準備万端です」みたいで恥ずかしかったので、なまえは少し逡巡してから、下だけ穿いていく事にした。
タオルで水分を拭き取った身体にバスローブを羽織り、腰紐をキュッと結ぶ。


「ああ、お帰り」


バスルームから出ると、半兵衛はソファに座って寛いでいた。
ワンセグで何かを観ていたようだ。

おいで、と招かれ、なまえは半兵衛の隣に座った。


「株価の確認をね。直接関係はないが、習慣だから一応確認しておこうと思って」

「あ、それならどうぞ。私の事は気にしないで続けて下さい」

「心配無用だよ。君のほうが重要だ」


スマホをテーブルの上に追いやって、半兵衛は正面からなまえの顔を見つめた。


「君にとって、性交はそれほど抵抗があることなのかい?」

「いえ…そ、そういうわけじゃ……ただ、その…色々なもので汚れるじゃないですか」

「ああ、汗や唾液や精液でという意味か。なるほどね」


半兵衛はズバリと口にして頷いた。


「例えるなら、洗濯したばかりのシーツを泥水で汚してしまうような、そういう感覚があるんだと思います、たぶん。…だから、半兵衛さんを汚してしまうような、そんな罪悪感があるというか…」

「汚すのは僕だと思うけどね」


急に腕を引かれたと思うと、半兵衛の膝の上に横抱きにされた。

近づいてくる美しい顔。
それが獰猛な生き物であるような錯覚を覚えた時にはもう唇が重ね合わされていた。

口の中で半兵衛の舌が動き回っている。
口の中を半兵衛に舐め回されている。

生々しいその感触にうわあああっとなったが、決して嫌ではなかった。
濡れた唇を舐めた半兵衛が間近で囁く。


「これは嫌じゃない?」


なまえは頷いた。
全然嫌じゃない。


「僕の首に腕を回して……そう、良い子だね」


柔らかい。温かい。
何度も唇を食まれ、舐められ、舌で口の中を愛撫される。
半兵衛のふわふわした髪が腕に当たってくすぐったい。

ついばむ様なキスと濃厚なキスを交互に繰り返しつつ愛撫していく半兵衛に、なまえの肢体から抵抗する力が抜けていく。


「ベッドに行こうか」



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