シャワーを浴びて着替えたところで、まるでタイミングを見計らったかのようにドアがノックされた。
きっと不二くんだ。
待たせてはいけないと急いでドアを開けると、そこには予想通り不二くんが立っていた。


「やあ。夕食の時間まで少し話さない?」

「うん、勿論。私も誘いに行こうと思ってたとこだから」

「そう?良かった」

「入って入って」


不二くんを室内に招き入れてドアを閉める。
彼が側を通ったとき、シャンプーの良い香りがしたから、やはり彼もシャワーを浴びていたようだ。


「へえ…やっぱりボクの部屋と同じなんだね」


不二くんが軽く室内を見回して感想を漏らす。


「うん、内装は皆同じなんだって。あ、テレビがある部屋もあるけど」

「そうなんだ。でも旅先まで来てテレビっていうのもね」


そうだよねと同意しながら不二くんにベッドを進める。
椅子がないため、二つのベッドにそれぞれ腰を下ろし、向かい合うように座った。

ベッドしかない部屋に二人きりでいても、あまり気まずい感じはしない。
たぶん不二くんがいつもと変わらず自然体でいるからだろう。
勝手に意識して勝手にあわあわしていた自分を穴に埋めたくなった。


「スキー楽しかったね」

「そうだね。家族と滑るのもいいけど、今日はなまえちゃんと一緒だったからもっと楽しかったよ」

「私も。不二くんと一緒に滑れて凄く楽しかった。張り切ってはしゃぎすぎたからちょっと疲れちゃったけど」

「そう?ボクはまだまだ平気だよ」

「不二くんと私じゃ体力が全然違うもん」

「うん、そうだね」


不二くんがクスッと笑う。
彼の細いけれどもしっかり筋肉がついたしなやかで強靭な肉体は、継続してスポーツをしている証だ。


「やっぱりテニス部の練習ってキツかった?」

「うーん…どうだろう。真夏なんかは大変だったけど、より高みに近づいてるっていう高揚感や充実感があったから、それほど辛いと感じた事はないかな」

「へえ…凄いね不二くん」

「そんなことないよ。皆同じメニューをこなしてたんだからね」


不二くんは少し懐かしそうな顔で笑った。

彼のかつてのチームメイトは、今ではそれぞれの道を歩んでいる。

手塚くんや越前くんは世界を股にかけるプロテニスプレイヤーとして活躍しているから私もテレビなどで見た事があるけれど、彼らからはやっぱりどことなく不二くんに繋がるものが感じられた。
それはテニスというスポーツを通して彼らが培ってきた自信だとか情熱だとか、きっとそういうものなんだと思う。

今は離れて別々に生きていても、彼らの心は尊い絆で結ばれているのだろう。


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