他の出口を探そう。

そう決意したなまえは、開かないドアに殺到する人々とは逆の方向に向かって走り出した。

どうやらエントランスホールは先ほどの会場を中心に、円のような形になっていて、ちょうど裏側に回り込むことが出来た。

「やっぱり!」

思った通り、反対側にも扉があった。

しかし。

「こっちにも鍵が…!」

扉を開こうとするが、鍵が掛かっているらしく、びくともしない。

「なまえ!そこにいるのか!?」

「零さん!?どうして…」

扉の向こう側から聞こえてきたのは間違いなく降谷の声だった。

「説明は後だ。待っていろ、今開けてやる」

ピッキングで開けたのか、程なくしてカチッと音がして扉が開いた。
途端、降谷が飛び込んで来る。
一瞬、幻かと思ったが、こんな美貌の持ち主が他にいるはずがない。

「零さん!」

「なまえ!」

抱き合う二人の背後からピエロが飛びかかってくる。

降谷は咄嗟になまえを自分の後ろに庇い、ピエロの腹に強烈なパンチをのめりこませた。
勢いでピエロの身体が後ろに吹っ飛ぶ。

その隙に降谷は拳銃を構え、こちらに向かって来ようとしていた別のピエロに向けて発砲した。

人々の叫び声を切り裂くようにして響いたその音は、反対側にも届いたようだ。

「出口はこっちだ!」

降谷の声を聞きつけた人々が一斉にこちらに走って来る。

「降谷さん!」

同じく拳銃を構えた風見が、部下を引き連れて突入してきた。
降谷が彼らに指示を出す。

「民間人の保護を優先しろ。怪我人には手を貸してやれ。攻撃対象はピエロの格好をした連中だ」

「はい!行くぞ!」

降谷の部下達が走って行くのを見て、なまえはほっと安堵の息をついた。
思わず力が抜けてふらついたその身体を降谷が腕を回して支える。

「おっと。まだ倒れるなよ」

「大丈夫です」

「怪我はないか?」

「はい。でも、どうしてここが?」

「君には、盗聴器とGPS発信器をつけてある。それで場所がわかった」

「ええっ」

「悪いとは思ったが、役に立っただろう?」

「もう…」

なまえは降谷にぎゅうと抱きついた。
同じだけ抱き締め返される。

「君が無事で良かった」

「ありがとうございます、零さんのお陰です」

「あまり心配させないでくれ」

「ごめんなさい」

でも、映画を観に行ってこんな目に遭うなんて思いもよらなかったんです、と言い訳したいのを我慢する。

「駄目だよ。許さない」

降谷は笑ってなまえを抱き締めた。

「終身刑だ」

一生俺の側から離さない。

そう告げられて、なまえもようやく笑顔を見せた。

それなら望むところだ、と。


降谷END


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