どうすることも出来ず、なまえは呆然と立ち竦んでいた。

会場から追いかけて来たピエロ達が、次々と逃げ遅れた観客達捕まえては、その身体に喰らいついていく。

辺りは新鮮な血の匂いで満ちていた。

「た、助けて…」

思わずそんな呟きが口から漏れ出た。

その時。

目の前のドアにまるで線のようなものが走るのが見えた。

「!?」

次の瞬間、頑丈な扉はバラバラになって崩れ落ちていた。
まるで紙切れか何かのように、呆気なく。

「お迎えに上がりましたよ、なまえさん」

バラバラになって崩れ落ちた扉の向こうには、赤い剣を手にした赤屍が立っていた。

「赤屍さん!」

駆け寄ろうとしたなまえに向かって、赤屍が赤い剣を一閃する。
驚くなまえのすぐ後ろに迫っていたピエロが切り裂かれてドッと床に倒れた。
コロコロと首が転がっていく。

「もう大丈夫ですよ」

「赤屍さん…!」

今度こそ赤屍に駆け寄ったなまえを、彼はしっかりと片腕で抱き締めてくれた。

「逃げなさい」

赤屍に促され、他の観客達が扉の無くなった入口に押し寄せてくる。
外へと出ていく彼らを追いかけて襲おうとしたピエロ達は、赤屍の容赦のない攻撃によって次々とコマギレにされていった。

なまえに飛びかかろうとしたピエロを斬り捨てた時、足元からズズン!という振動が伝わってきた。

「な、なに…?」

「爆発の振動ですね。恐らく、もはやこれまでと悟って、この館を爆破するつもりなのでしょう」

「そんな…!」

「こうなれば、長居は無用です。行きますよ、なまえさん」

「きゃっ」

なまえを片方の肩に担ぎ上げた赤屍は、足止めするつもりなのか、まだしぶとく襲いかかってくるピエロ達を斬り伏せながら館の外に向かって走り出した。

「赤屍さん、バスが…!」

外に出ると、バスはまだ止まっていたが、エンジンがかかっているらしく、今にも発車しそうになっていた。

「早く!」

開け放たれたバスのドアの向こうから男が叫ぶ。

なまえと赤屍が乗り込むと同時にピシャリとドアが閉められ、バスはすぐに動き出した。
続いて大きな爆発音が立て続けに響き渡る。

「見て!館が…!」

館が燃えていた。

真っ赤に燃え上がり、崩れ落ちていく館が徐々に遠ざかっていく。

その様子をバスの窓から見つめながら、なまえはしっかりと赤屍に抱きついていた。

「ありがとうございます、赤屍さん。助けに来てくれて」

「貴女のためなら、いつでもどこへでも駆けつけますよ」

そう言って微笑んだ赤屍がなまえに口付ける。

バスの中に拍手と歓声が巻き起こった。

恐怖は去った。
後はエンドロールが流れるのを待つだけだった。


赤屍END


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