ブライダルフェアの会場は予想通り混みあっていた。 人気の式場だけあって、やはり見学者も多い。 「わあ…すごく広いんですね。何処から回ればいいんだろう」 「大丈夫、ちゃんと考えてあるよ。君は心配しなくていい」 「半兵衛さん…!」 さすが頼れる旦那様だ。 人気が殺到していてかなり待つことになるというウェディングドレスの試着も既に予約済みだというから、用意周到な策士様々である。 施設の見学をするために、まずはチャペルへ。 館内にある二つの内の一つだというそこは荘厳な雰囲気漂う場所だった。 「素敵…!こんな所で式が挙げられたらいいですね」 「挙げるんだよ。これからね」 新郎が花嫁にそうするようにエスコートして式場を出た半兵衛は、なまえを外に広がる庭園へといざなった。 緑に囲まれたガーデンは花が咲き乱れており、テラスではガーデンウェディングも出来るらしい。 「少し座ろうか」 「はい」 人混みに疲れたなまえを気遣い、半兵衛はガーデンテーブルの前の白い椅子に腰を下ろした。 テーブルの上には結婚情報誌やカタログが何冊か置かれている。 なまえはその一つを手にとって開いてみた。 「この情報誌を見ると、指輪の形や石のカットのタイプも色々あるんですね」 「ああ、そのようだね」 なまえと半兵衛は連れだって宝石店へ赴き、殆ど議論する事もなく二人同時にほぼ一目見て同じ指輪を気に入ったため、あまり他を見る事がなかったのだ。 半兵衛はなまえの手を取ると、リングを填めたなまえの薬指が自身の顔の正面に来るように持ち上げ、しみじみと眺めながら満足そうに微笑んだ。 「やはりプラチナにして良かったね。ゴールドもいいけど、君には白銀の輝きがよく似合う」 半兵衛から贈られたのは、婚約指輪と結婚指輪を重ね着け出来るセットリングだった。 「私もお気に入りなんですけど、着けるたびに落としたり傷をつけたりしちゃわないかドキドキします」 半兵衛からのプレゼントとして大切なのは勿論だが、何しろ何十万もする指輪だ。 落としたり盗られりしたらと思うと、とてもじゃないが指に填めたまま生活することなど出来ない。 だから普段はシルバーのチェーンに通してネックレスとして身につけている 。 そのほうがまだしも安心だからだ。 「気にすることはないさ。もし失くしても、何度でも同じものを贈ろう」 微笑を浮かべたまま半兵衛が指輪にキスを落とす。 彼はそういうが、これは一生に一度の一つだけの宝物だ。 なまえはやっぱり失くさないように今まで以上に大切に扱おうと心に決めた。 半兵衛の左手の薬指に光る同じ指輪のためにも。 |